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アングル:ベラルーシ大統領、ロシアが愛想尽かすか 見返り少なく

ベラルーシのルカシェンコ大統領は、巧みな政治手腕を駆使してロシア政府から支援を引き出し、27年間にわたって権力を維持してきた。しかしロシア側にはほとんど見返りがないように見える。写真はルカシェンコ氏(左)とプーチン氏。モスクワで9月撮影(2021年 ロイター/Shamil Zhumatov)
[12日 ロイター] - ベラルーシのルカシェンコ大統領は、巧みな政治手腕を駆使してロシア政府から支援を引き出し、27年間にわたって権力を維持してきた。しかしロシア側にはほとんど見返りがないように見える。
国際的に孤立し、制裁強化を突き付けられているルカシェンコ氏は、プーチン・ロシア大統領の支持頼みの状態がかつてないほど強まっている。しかしロシア側はルカシェンコ氏に越えてはならない一線があることを鮮明にした。
このほど欧州連合(EU)がベラルーシを非難し、中東やアフガニスタン、アフリカからの移民数千人をポーランドに送り込もうとする「ハイブリッド攻撃」を行っていると指摘したとき、ロシアは警戒のため即座に核兵器搭載可能な爆撃機をベラルーシに派遣し、空挺部隊による合同訓練を行った。
しかし、ロシア産天然ガスをベラルーシ経由でポーランドとドイツに輸送するパイプラインの遮断をルカシェンコ氏がちらつかせたことについて、ロシア政府は12日、明確に批判した。
ロシアのペスコフ大統領報道官は、ルカシェンコ氏はロシア政府と協議しておらず、同氏の言動は「いかなる意味においてもロシアと足並みがそろっていない」と述べた。
ベラルーシの反政権派チハノフスカヤ氏の顧問を務めるフラナク・ビアコルカ氏は、天然ガス輸送の停止をちらつかせる策略について、ロシア側に打診をせずに「ロシアカード」を使って欧米に対抗しようとするルカシェンコ氏お得意の衝動的な企てだったと述べた。
ビアコルカ氏は電話インタビューで、「小さな男の子が兄の後ろに隠れているようなものだ」と指摘。「ルカシェンコ氏はロシア政府を利用し、その威光で欧米諸国を脅かそうとしているが、自分の発言についてロシア側に相談しないことが非常に多い」と話した。
<厄介なパートナー>
ルカシェンコ氏がプーチン氏の我慢の限界を試すようなふるまいに出るのは今回が初めてではない。
同氏は過去数十年にわたりロシア政府から巧みに譲歩を引き出し、特に安価なエネルギー供給と政府融資を手に入れてきた。同時に口先ではロシアとの「連合国家」構想を支持しながら、十分な距離を保ち、ベラルーシが主権を失ったり、自身の権力が弱まるのを回避してきた。
2015年にロシアがベラルーシに軍事基地の設置を要請した際には拒否し、ロシア側はこれを「不快な出来事」と称した。またロシアによる14年のクリミア併合についても正式承認を保留する一方、今月プーチン氏と会談した際には「クリミアに一緒に行こうという誘いを楽しみにしている」とジョークを飛ばした。
ロンドンのシンクタンクRUSIの国際安全保障研究ディレクター、ニール・メルビン氏は、ルカシェンコ氏は過去20年間、ロシアに対して「弱い立場ながら、結構うまくやってきた」と指摘。プーチン氏が、ルカシェンコ政権を崩壊の危機に追い込んだ昨年の大規模デモの問題などでルカシェンコ氏支持を続けているのは、ベラルーシで革命が起きて親欧米政権が誕生するのを恐れているためだと分析した。
メルビン氏によると、ウクライナで起きたような「色の革命」によりルカシェンコ政権が倒れ、ベラルーシが西側に移ることをプーチン氏は望んでいない。「プーチン氏は非常に慎重に対応せざるを得ない」と言う。
ただ、今回の問題はプーチン氏にとってメリットがないわけではない。
北大西洋条約機構(NATO)との緊張が高まっているタイミングで、NATO加盟国との国境付近でロシアの軍事力を見せつける機会を得たほか、NATOと米軍による黒海での合同軍事演習に対抗し、自国と同盟国を積極的に防衛する意思も示したかったからだ。
移民問題が欧州に混乱を引き起こす可能性は、EUに挑んで弱体化させるというプーチン氏の戦略と合致する。
マンチェスター大学の東欧専門家、オルガ・オヌフ氏は、「近接するさまざまなEU諸国で起きている不安定化やもめ事、また英国のような事態は(ロシア政府の)近年の筋書きにおおむね沿っている」と言う。
オヌフ氏は、ルカシェンコ氏はロシア政府の暗黙の了解を得て、こうした目的に沿って活動しているが、「何をしでかすか分からない危険人物の気味がある」と述べた。
(Mark Trevelyan記者)