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焦点:米共和党の戦略迷走、ペンシルベニア州が露呈した深い亀裂
米ペンシルベニア州ハンティンドン郡はトランプ前大統領の支持者が多い土地だ。写真は昨年12月、同州ハリスバーグを歩くトランプ氏の支持者(2021年 ロイター/Jonathan Ernst)
[エクストン(米ペンシルベニア州) 25日 ロイター] - 米ペンシルベニア州ハンティンドン郡はトランプ前大統領の支持者が多い土地だ。ここで共和党地区委員長を務めるC・アーノルド・マクルア氏は、トランプ氏に造反した共和党議員を罰したいと考えている。
マクルア氏らが州の党組織に働き掛けているのは、州選出のパット・トゥーミー上院議員の問責決議採択。1月の議会襲撃事件を受けた今月のトランプ氏への上院弾劾裁判で、トゥーミー氏が有罪票を投じたためだ。マクルア氏は今後の選挙で、共和党候補者が同郡での支持を求めようとする場合には誰であっても、同様の「物差し」を適用するつもりでいる。マクルア氏によると、トランプ氏を擁護する候補者であれば「われわれの最初のリトマス試験」に合格する。逆に「トランプ派」でない候補者に対し、マクルア氏が発する質問はたった1つだ。「一体何のご用ですか」。つまり門前払いだ。
しかし、同州の他の共和党幹部は、トランプ氏の下で連邦上下両院の多数派と大統領ポストを失ったのにもかかわらず同氏支持派を候補者に立てれば、次回以降の選挙でも敗北し続けるしかないと警告している。同州のピッツバーグ市を含むアレゲニー郡のサム・デマルコ地区委員長は、党内のトランプ批判派を排除することは、多くの無党派層や、共和党員ではないが同党寄りの有権者に間違ったシグナルを送ると指摘した。
マクルア氏とデマルコ氏の相反する見方こそ、ペンシルベニア州をはじめ米国全体で共和党が直面する内部の亀裂の深さを物語っている。何人かの党幹部は、この亀裂が来年の中間選挙で共和党の勝利を阻む要素になりかねないと示唆。これは各種世論調査でも裏付けられる。
ロイターが約25人の共和党関係者や政治活動家、専門家などに取材したところでも、ペンシルベニア州での今後の選挙戦略を巡る深刻な党内対立が明らかになった。
ペンシルベニアは、来年の中間選挙で共和党が多数派を奪還できるかどうかを左右する重要な州の1つとみられている。ただ現時点で言えるのは、候補者選びが「墓穴」を掘りかねないということだ。来年中間選挙に向けた党の予備選でトランプ氏に忠誠を誓う候補が穏健派候補に勝利しても、その勝者は民主党候補と戦う本選では中道支持者に背を向けられ、民主党候補に敗れる公算が大きいからだ。
同州フィラデルフィア市郊外のバックス郡の党コミッショナーで元州下院議員のジーン・ディグロラモ氏は「誰が最も過激な右派なのか、トランプ氏に最も忠実であるかを争う予備選になるとすれば、本選で共和党が勝つのは極めて難しくなるのは間違いない」と言い切った。
2月18-24日に実施したロイター/イプソス調査でも、共和党の方向性を巡る党員の不満が高まっていることが分かる。党員の48%が党は「迷走している」と回答。この割合は昨年12月時点から17ポイントも上昇した。ペンシルベニア州の有権者登録データをロイターが確認すると、今年初めから2月22日までの共和党離党者は2万2000人強と、同期間の民主党離党者の8000人弱を大きく上回った。
もっとも党幹部の多くによると、トランプ氏と決別すれば党勢が上向くという単純な話ではない。来年の不出馬を表明しているトゥーミー氏の後釜を目指すと表明したショーン・ゲール弁護士は、熱心なトランプ氏支持者でもある。ゲール氏は、共和党が過去に中道派候補を立てて選挙に勝とうとしたが、うまくいかなかったと指摘する。
ゲール氏は「穏健派や、多少とも民主党色のある共和党候補を送り出すことで無党派層と民主党員を取り込む作戦は、破滅への道だと証明されている」と述べた。具体例として、2008年と12年の大統領選でそれぞれジョン・マケイン氏とミット・ロムニー氏を候補にした結果、敗北したことを挙げた。
実際トランプ氏は大統領の地位を失った今もなお、共和党の事実上のリーダーとして君臨している。28日にはフロリダ州オーランドで開かれる保守派大会で、大統領退任後初めて演説。トランプ氏のアドバイザーの1人によると、来年の中間選挙で党内の穏健派が勢力を増すのを防ぐため、トランプ氏は自身が立ち上げた政治行動委員会(PAC)の政治献金システムを「武器」にする戦略だ。「トランプ氏は(党の)政策の方向性だけでなく、誰がトランプ氏の価値観を真剣に唱導しているかを値踏みするという面でも、引き続き絶大な影響力を握る」という。
<新たなリーダーの不在>
ペンシルベニア州の共和党委員会は24日、トゥーミー氏の処分を検討する会合を開催。しかし、システムの不具合で問責投票は行われなかった。投票が今度いつになるかは25日朝の段階で未定。
同州リーハイ郡では27日の共和党の選挙資金獲得集会で、新人のローレン・ボーバート下院議員(コロラド州)が銃所持の権利について演説を任された。リーハイ郡の党幹部によると、ボーバート氏は熱心なトランプ支持派で銃所持権利も擁護しているため、同氏のおかげで集会のチケット販売は好調。「ボーバート氏は(全米的に)知名度を上げつつある」という。これもトランプ氏の影響力の大きさを物語る。
リーハイ郡の同幹部や他の党幹部からも、民主党に政権や連邦議員の多数派を取られた以上、来年の中間選挙までに党の団結が強まると期待する声さえ聞かれる。しかし重要なのは、誰が団結の核になるかだ。
世論調査を見ると、トランプ氏の人気には確実に陰りが出ている。大統領退任直前の1月8日-12日のロイター/イプソス調査では、トランプ氏を支持する共和党員の割合は約7割と、昨年の最大9割から低下した。
とはいえ同氏に取って代わるリーダーも見当たらない。2月18日-24日のロイター/イプソス調査では、党員にトランプ氏以外の共和党有力者の中から次の米国のリーダーにふさわしい人物を尋ねた結果、最大の支持を集めたテッド・クルーズ上院議員(テキサス州)でも22%どまりだった。クルーズ氏はトランプ氏に最も忠実な議員の1人だ。
一方で、議会襲撃事件に絡んでトランプ氏を批判したミッチ・マコネル上院院内総務に至っては、3%の支持しか集まらなかった。「Qアノン」系の陰謀論を打ち出してひんしゅくを買っているマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州)に並ぶ支持率だ。
<「内戦」終結宣言>
トゥーミー氏の問責問題を巡り、共和党上院の全国選対本部委員長を務めるリック・スコット上院議員(フロリダ州)は今週、共和党の「内戦」は打ち切られていると宣言。問責をはやし立てるメディアや党内の一部勢力さえも共和党の内輪もめを望んでいるようだとしつつ、「われわれはそんなことに時間を割く余裕はない」と強調した。
ただウエストチェスター大学のジョン・ケネディ教授(政治学)は、そうした望み通りに簡単に党内対立が収まるわけはないと話す。同氏の見立てでは、ペンシルベニア州の共和党予備選は党員だけに投票資格があるため、トランプ支持派が力を増すと、穏健派候補が予備選を制するのは難しくなる。
専門家や共和党穏健派の中には、共和党が18年の中間選挙でトランプ氏と政治姿勢が似ている人物らを上院議員候補と知事候補に指名した結果、大敗した例を指摘する向きもある。また現在の内紛は、10年前に保守派の草の根運動「ティーパーティー」によって党が分断された状況をほうふつさせるとの声もある。共和党の当時の上院選での敗因はティーパーティーの応援する候補らを立てたことにあるとされている。
ペンシルベニア州でトランプ支持派の勢力が強いシュイキル郡のハワード・メリック共和党地区委員長は、離党した有権者は必ずしも反トランプの穏健派ばかりでなく、トランプ氏に批判的な共和党議員に対し激高しているトランプ支持者もいると主張した。大統領選に不正があったので負けたというトランプ氏の主張を今でも信じてやまない人々だ。
メリック氏は「トランプ支持者はこれまで起きたあらゆる出来事に腹を立てている。しかし最も怒りを向けているのは議員たち、トゥーミー氏のように、トランプ氏のために行動しなかった共和党上院議員たちだ」と分析する。ただメリック氏は、トゥーミー氏の問責騒ぎは党を一段と弱体化させるだけだとの見方も示した。
<絶対服従主義>
トゥーミー氏は既に来年の選挙に出ない意向を表明しており、後継候補を選ぶ必要がある。
現在の連邦上院は共和党と民主党が50議席ずつ分け合い、議長を務めるハリス副大統領の1票があるため、かろうじて民主党が多数派となる状況。ペンシルベニア州は来年の中間選挙の最激戦州と目されており、共和党がここを確保できないと上院多数派奪還の実現はかなり遠のく。
トゥーミー氏に対する共和党内の評価の変化こそが、党の「トランプ化」を如実に示す。トゥーミー氏はかつては信頼できる保守派と見なされたが、今やトランプ支持者の一部からは裏切り者呼ばわりされている。トゥーミー氏が04年、現職アーレン・スペクター氏に挑む形で最初の上院選に出馬した際、スペクター氏は「名ばかり共和党員(Republican in Name Only=RINO)」と批判された。現在はトゥーミー氏が同じ言葉で、ののしられるようになっている。
共和党穏健派の元連邦下院議員でトゥーミー氏の後継候補争いに名乗りを上げようとしているライアン・コステロ氏は、共和党員の多くがトランプ氏への絶対的な忠誠ぶりを要求する現状に心を痛める。コステロ氏はトランプ氏には批判的。トランプ氏の政治行動に無条件に従うよう支持派が求めていることについて、そうした「絶対服従主義」はトランプ氏からの支持を得る上では必須だとしても、本選では負けるやり方でしかないと主張している。
(Nathan Layne記者、Joseph Ax記者)