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アングル:貿易問題を楽観視する市場、日銀総裁は「非常に懸念」と警鐘

2018年09月20日(木)01時13分

 9月19日、米国が新たに2000億ドル相当の中国製品に対する追加関税の発動を決め、米中貿易摩擦は激しさを増す一方となっている(2018年 ロイター/Toru Hanai )

[東京 19日 ロイター] - 米国が新たに2000億ドル相当の中国製品に対する追加関税の発動を決め、米中貿易摩擦は激しさを増す一方となっている。ただ、その後の市場は、株高・円安が進行するなどリスク・オン相場が継続。一方、日銀の黒田東彦総裁は19日の会見で、通商問題の帰すうを「非常に懸念している」と警戒感を示し、市場の楽観論に警鐘を鳴らしたかたちだ。

トランプ米大統領が17日、知的財産権の侵害を理由に2000億ドル相当の中国製品に対し、第3弾となる10%の制裁関税を課すと発表した。24日付で発動し、税率は年末に25%に引き上げられる。

これに対して中国も「報復する以外の選択肢はない」(商務省)として24日から約600億ドル相当の米国製品に関税を課すと発表。トランプ政権は、さらなる関税措置を検討するなど事態は泥沼化の様相を呈している。

国内総生産(GDP)で世界1位と2位の国が対立する今回の貿易摩擦は、世界経済への悪影響が避けられない。

だが、市場の反応は極めて冷静だ。19日の東京市場では、日経平均<.N225>が4日続伸。一時は400円を超す上昇となった。ドル/円も一時、2カ月ぶりの高値となる112.43円を付けるなどドル高/円安が進行。米中貿易摩擦の激化を横目に、リスク・オン相場が継続している。

複数の市場関係者によると、この背景には、1)現時点で米中貿易摩擦などの通商問題が、好調な世界の実体経済に悪影響を及ぼしていることが確認されていない、2)米国の対中追加関税率が当初は10%と低めに設定されて交渉余地が確保された──と受け止められたことがある。

また、通商問題の深刻化に伴う景気減速懸念も背景に、自民党総裁選での3選が有力視されている安倍晋三政権が、大規模な財政政策を打ち出すとの期待感も市場で浮上しつつあるという。

一方、日銀の黒田総裁は19日の金融政策決定会合後の会見で、経済・物価の先行きリスクの1つに保護主義的な通商問題を挙げ、「リスクは若干強まった」と表明。同時に

世界経済が成長を持続するとのメインシナリオに変化はないと強調した。

ただ、国際機関の分析も紹介し「通商問題が企業や家計のマインドに影響を与え、投資や消費にも影響が出てくると、世界経済に大きな影響が及ぶ」とのリスクシナリオにも言及した。

サプライチェーン(供給網)が世界規模で広がっている中で「特定の2国間の問題は、当事国だけにとどまることなく、非常に幅広い影響を及ぼしうる」と指摘。「単に米国と中国との問題だけに限らず、世界・日本経済への影響は注視していく必要がある。非常に懸念しつつ、状況を見ている」と強い警戒感を示した。

今のところ、日本の貿易統計などには、米中間の貿易戦争による直接的な影響は出ていないが、中国から米国向けに輸出しているIT機器や自動車・自動車部品の中には、日本から中国に輸出されている部品が、かなりの割合で組み込まれている。

今後、米中間の紛争が長期化した場合、中国企業から日本企業に対し、受注のキャンセルや新規受注を削減するといった事態も予想され、製造業を中心に売上・収益の下振れ要因になるリスクがある。

世界規模のサプライチェーンの存在に言及した黒田総裁には、そうしたリスクシナリオの想定があったとみられ、米中間の貿易戦争の行方は、「対岸の火事」では済まされないという展開にも注意が必要といえそうだ。

ロイター
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