ニュース速報

ワールド

焦点:トルコ・タントラムか、市場は通貨危機の伝染を懸念

2018年08月19日(日)08時32分

 8月14日、トルコ通貨リラは過去1週間にわたって最安値を更新し続け、世界の金融市場を揺るがしている。写真はリラ紙幣。イスタンブールで撮影(2018年 ロイター/Murad Sezer)

Ritvik Carvalho and Karin Strohecker

[ロンドン 14日 ロイター] - トルコ通貨リラは過去1週間にわたって最安値を更新し続け、世界の金融市場を揺るがしている。14日以降、いくぶん値を戻しているものの、外国銀行に対する圧力や新興市場資産の投げ売りによる危機の伝染を投資家は懸念している。

トルコリラの下落と「危機の伝染(コンテージョン)」が他の資産クラスに及ぼす影響を以下にまとめた。本格的なコンテージョンの兆候が出現したのは、2013年に米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和縮小を示唆して新興国が動揺した、いわゆる「テーパー・タントラム(緩和縮小に対するかんしゃく玉破裂の意味)」以降で初めてだ。

1)リラ下落の副産物

今月初めからの資産運用の変化には、トルコ情勢の影響が見られる。

MSCI新興国株指数<.MSCIEF>は年初来9.9%下げており、MSCI世界株価指数<.MIWO00000PUS>の進む方向と乖離(かいり)し続けている。また、これは新興国の中央銀行がいっせいに金融引き締めを行っている時期とも重なった。

トルコ通貨危機による世界市場に対する影響の大きさや持続性を巡っては、専門家の間でも意見が分かれている。

「対ロシア制裁や米国とトルコの関係は特異なリスクであり、これらに限っていえば、大きなコンテージョンはみていない」とピクテ・アセット・マネジメントのスティーブ・ドンズ氏は言う。「新興市場全体でコンテージョンが起きるには、包括的にドルが強くなくてはならない」

2)新興株

リラ急落はトルコの株式市場を動揺させた。ドル建てでは、MSCIのトルコ株式インデックス<.MITR00000PTR>が8月初めから約24%下落。年初来では50%超下げている。一方、より幅広いMSCI新興国株指数<.MSCIEF>は約10%の下落だ。

3)他の新興国通貨に波及

トルコリラの急落は、他の新興国通貨の下落も招いている。アルゼンチンの通貨ペソは最安値を更新。新たな緊急利上げも歯止めにはならなかった。インドのルピーも最安値まで落ち込んだ。ロシアのルーブル、南アフリカのランド、インドネシアのルピアも2年超の安値となった。

トルコと類似性のある市場だけが売り手の標的ではないと、英投資会社エキゾティックス・キャピタルのスチュアート・カルバーハウス氏は指摘する。

「コンテージョンとリスクオフが主なテーマだ。ただし、『似たような特徴』だからというより、全般的に売られている」

多くの国では、経常赤字の拡大により、リスク資産を減らそうとする投資家に対する脆弱(ぜいじゃく)性が一段と高まっている。「こうした基準で見ると、トルコ、アルゼンチン、パキスタンがもっともダメージを受けやすい」とカルバーハウス氏は付け加えた。

新興国通貨安の連鎖はまた、過去1カ月においてこれらの通貨に対する予想変動率の急上昇をもたらした。これは、さらに大きな動きが数日内に起きると投資家が予想していることを示している。

4)ユーロとユーロ圏の銀行

欧州の銀行株、とくにトルコでかなり手広く活動しエクスポージャーが高い銀行の株式は、欧州中央銀行(ECB)が一部銀行について懸念を強めていると伝えられると売られた。

「スペインの銀行は、深刻化する通貨危機に対してもっとも弱い。次に弱いのはフランスとイタリアの銀行だ」と、英コンサルタント会社TSロンバードのシュエタ・シン氏は指摘。「欧州の銀行が抱えるトルコに対するエクスポージャーの高さを考えると、危機が進行するにつれ、その影響に対する投資家の懸念も強まる」

欧州の銀行に対する圧力は、通貨ユーロへの圧力へと波及している。ユーロ圏の金融システムの安定性を巡る懸念が再燃する中、ユーロはすでに弱含んでいた。

5)安全資産

投資家がリスク資産を手放し、世界でもっとも安全と思われている米国債へと向かう中、米ドルもリスクオフの流れの恩恵を受けている。米10年債利回りは過去2週間で最低水準となり、ドルは1年ぶりの高値を記録した。

安全資産とみなされている日本円やスイスフランといった通貨も、トルコ・ショックから買われた。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、攻撃対象をエネルギーから民間施設にシフト=

ワールド

ロシア軍、ウクライナの戦闘で大規模部隊の攻撃に転換

ワールド

EXCLUSIVE-米ミサイル防衛、マスク氏のスペ

ビジネス

シティ、3カ月以内の金価格予想を3500ドルに引き
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、アメリカ国内では批判が盛り上がらないのか?
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 7
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    関税を擁護していたくせに...トランプの太鼓持ち・米…
  • 10
    金沢の「尹奉吉記念館」問題を考える
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中