ニュース速報
ワールド
アングル:北朝鮮に商機あるか、疑心暗鬼の中国人経営者

6月12日、中国の不動産投機筋は、12日の米朝首脳会談によって、北朝鮮の富が開放されることに賭けているかもしれない。だが、中国の建設機械ディーラーのワン・チェンリンさんは懐疑的だ。写真は、建設プロジェクトが頓挫している中国と北朝鮮を結ぶ新鴨緑江大橋と、空の税関建物。中国遼寧省丹東市で2016年9月撮影(2018年 ロイター/Thomas Peter)
Brenda Goh
[丹東(中国) 12日 ロイター] - 中国の不動産投機筋は、12日の米朝首脳会談によって、北朝鮮の富が開放されることに賭けているかもしれない。だが、中国の建設機械ディーラーのワン・チェンリンさんは懐疑的だ。
北朝鮮貿易のほとんどが通過する遼寧省丹東市の多くの経営者と同様、ワンさんの期待はこれまで打ち砕かれてきた。
とりわけ、ワンさんは、新たな経済関係の幕開けを象徴するはずだった新鴨緑江大橋の建設プロジェクトのために掘削機3台を提供したが、北朝鮮政府が中国と協力する決定を覆してプロジェクトが反故(ほご)にされたことを思い出す。
ワンさんはまた、北朝鮮の取引相手が厳しく値切ってくると話す。彼らは20%の値引きを要求し、手付金だけ支払って消えることもあったという。
国連が北朝鮮への制裁を強化し、取引が完全に停止した昨年8月より以前は、ワンさんは年間5─10台の機械を北朝鮮の取引相手に販売していた。これはワンさんのビジネスの約20%を占めるという。ワンさんは丹東で10年以上にわたり、建設機械を売る会社を経営している。
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が北朝鮮の指導者となってから初の外国訪問となった3月の訪中以降、ワンさんの会社に北朝鮮から再び問い合わせが入るようになった。
<投機筋>
これは、中朝間の国境を越えたビジネスが最近になって回復傾向にあることを示す数多くの兆候の1つにすぎない。投資家も、鴨緑江を挟んで北朝鮮の反対側に位置する丹東市の不動産を購入している。
投機筋は北朝鮮と接する他都市でも土地を買いあさっている。また、制裁がまもなく緩和されるとの期待から、貿易業者は北朝鮮産の安い石炭を買いだめしている。
金委員長とトランプ米大統領は12日、シンガポールで史上初となる米朝首脳会談を行い、朝鮮半島の完全な非核化を目指すことなどで合意した。 合意は、北朝鮮の核兵器プログラム放棄の土台となる。
「北朝鮮が開放すれば状況は良くなる」と、丹東市で帽子を売るヤンさんは言う。「北朝鮮の国民はとても貧しい。まるで1980年代の中国のようだ」
ヤンさんによれば、北朝鮮への制裁が強化されてからこの数カ月、同市で買い物をする北朝鮮人の数は減少していた。しかし現在、不動産価格は、貿易再開に賭ける人たちによって跳ね上がっているという。
丹東の他の住民も、北朝鮮人の労働者が戻ってきており、一部のレストランやホテルが再開していると話す。
しかし、建設機械ディーラーのワンさんは、長い間孤立していた北朝鮮の経済開放に期待することに警鐘を鳴らす。
「私たちは多くのどんでん返しを経験してきた。彼(金正恩氏)を私は完全には信じていない」と、米国との合意により自国の孤立化に終止符を打とうとする金委員長の意思について、ワンさんはこう述べた。
とはいえ、米朝首脳会談によって経済開放が実現するなら、北朝鮮のバイヤーの興味を引くような安価なモデルを買い増すことを検討するとワンさんは言う。北朝鮮の市場が開放された場合、韓国や米国などの企業との競合が予想されるという。
「ありがたいことに、中国市場は十分に大きい」とワンさんは語った。
<捨てられた橋、壊れた窓>
総工費22億元(約380億円)の新鴨緑江大橋プロジェクトは、2012年に建設が始まった。冷戦時代の同盟国である北朝鮮を説得し、輸出志向の経済改革に着手させる中国の取り組みを象徴するものだった。
地元建設機械メーカーの製品を扱うワンさんは、新鴨緑江大橋の着工式や周辺で計画されていた自由貿易区を振り返る。
金委員長のおじで、のちに処刑された実力者の張成沢(チャン・ソンテク)氏も式に出席していた。
同プロジェクトにより、ワンさんを含む多くの企業が丹東新区に群がった。ワンさんは、中国が出資する同プロジェクトの地ならしをするため、橋の北朝鮮側に掘削機3台を提供した。
だが、事はうまく運ばなかった。
北朝鮮の国境警備員は夜、川岸に置かれた掘削機の窓を壊して、作業員が残していったパンや飲み物を盗んだと、ワンさんは明かした。修理するのに1台当たり1800元かかったという。
中朝間の主な仲介役を務めていた張氏が2013年末に反逆罪で処刑されると、同プロジェクトはつまづいた。
中央分離帯のあるこの橋は現在、使用されておらず、自由貿易区への入り口はひと気もなく閉鎖されている。
別の建設機械ディーラーの営業部長を務めるハン・シャオニンさんも過去に北朝鮮と取引したことがあり、警戒していると話す。
「北朝鮮を当てにしたら、飢え死にすることになる」とハンさんは語った。
ただし、皆がそこまで慎重というわけではない。
建設機械ディーラーのフー・ホンさんは、自社で扱うブランドが北朝鮮で人気だとし、米朝首脳会談の成功で訪れる機会が待ち遠しいと言う。
ホンさんによると、勤め先の販売代理店は1月、制裁のあおりを受けて事業が頓挫した企業を買収し、鴨緑江の向こう側でのビジネスチャンスに強気だという。
「私たちは、この市場に最大の可能性があると感じている」とホンさんは語った。
(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)