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焦点:核合意離脱で孤立する米国、今後の対イラン行動困難に
5月9日、トランプ米大統領が、欧州諸国や共和党関係者らからの警告にもかかわらずイラン核合意からの離脱を選んだことで、米国の反イラン運動が孤立し、予測不能の事態に陥る可能性が強まったと専門家は指摘する。写真はワシントンで2015年撮影(2018年 ロイター/Jonathan Ernst)
[ワシントン 9日 ロイター] - トランプ米大統領が、欧州諸国や共和党関係者らからの警告にもかかわらずイラン核合意からの離脱を選んだことで、米国の反イラン運動が孤立し、予測不能の事態に陥る可能性が強まったと専門家は指摘する。
トランプ大統領は8日、欧米とイランが結んだ核合意からの離脱を表明。合意はイランの核開発や邪悪な行為に厳しい制限を掛けず、気前よく経済制裁を解除したと主張した。
米国の合意離脱は、核問題だけでなく、イランの影響が及ぶイエメンやシリア、イラク、アフガニスタンの脅威に対する今後の行動について、欧州や他の諸国との結束を難しくするかもしれないとアナリストは分析。
また、中東地域で予測できない状況を生み出し、イランが同地域で米国の国益に公然と歯向かって影響力を強めようとするかもしれない。マーチン・デンプシー元統合参謀本部議長はツイッターに「われわれは、より危険な道で孤立し、選択肢も少ない」と投稿した。
イスラエル軍は8日、イランの友好国である隣国シリアと衝突する恐れから、警戒態勢に入り、地域の緊張が高まっていることを裏付けた。
ブッシュ政権時代に国務省高官だったニコラス・バーンズ氏は「離脱は米国の力を弱めることになる」と話す。イランの強硬派を勢いづけ、対イラン政策でロシアや中国からさらに遠ざかり、欧州諸国を困らせるという。「長い間協力してくれた欧州諸国の意欲に深いマイナスの影響を及ぼすだろう」
米政府当局者は、米国とイランの関係悪化が隣接するイラクに悪影響を与えると指摘する。
イラクでは12日に国会選挙があるが、米国が支援した過激派組織「イスラム国」掃討後の選挙で、アバディ首相が続投を目指している。マティス国防長官は選挙を巡りイランが邪魔していると非難した。
マティス氏はかつてイラン核合意の順守が必要だと公言していたが、その後見解を和らげ、議会に対して、修正が必要な不完全な軍縮合意だったと述べた。
ただ関係者によると、内々でマティス氏はイランの脅威を考えると同盟国と協力すべきだと強調してきたという。4月26日の議会証言でマティス氏は「中東の安定に何が重要かという点とイランによる脅威に集中すべきだ」と語った。脅威は核開発を超えてテロ支援やサイバー攻撃にまで広がっていると述べた。
西側のある外交官は、イランがシリアやイラクで米国に対し報復することには疑念を呈す。イスラエルの反撃が考えられるためだ。
「米国を懲らしめるため、イスラエルと戦争する危険は冒さない」と話す。イスラエルは2月からシリアでイラン軍と競り合っており、戦線拡大が懸念されている。イスラエル軍は8日、シリアでイラン軍の不規則な動きを察知したとして、ゴラン高原で防空体制を取るよう指示した。
米国はイランがイエメンで反政府組織「フーシ」にミサイルを供給し、内戦を地域紛争に拡大させているとして、イランを非難している。
米当局者は、イランのライバルであるサウジアラビアを標的にするフーシへの支援をイランが強めるとの懸念があると認めた。イエメンからのミサイル攻撃でサウジ側に多数の死者を出せば、広範な地域戦争の恐れが高まると専門家は指摘する。
イラン核合意の崩壊はまた、イランがひそかに核開発を再開するリスクを高める恐れがある。イランは核兵器の開発を否定し、平和目的の核利用だと主張している。
(Phil Stewart記者)