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アングル:「IMF頼み」続くウクライナ、支援条件は履行困難か

2015年03月20日(金)18時03分

 3月19日、ウクライナが1991年に独立して以来受けたIMFの支援プログラム8件のうち、成功裏に完了したのはわずか1件にすぎない。写真はウクライナのポロシェンコ大統領(左)とIMFのラガルド専務理事。ダボスで1月撮影(2015年 ロイター/RUBEN SPRICH)

[ワシントン 19日 ロイター] - ウクライナが1991年に独立して以来受けた国際通貨基金(IMF)の支援プログラム8件のうち、成功裏に完了したのはわずか1件にすぎない。ロシアによるクリミア併合から1年。最新の支援についても合意条件を履行できるか心もとない状況だ。

ウクライナ財務相はIMFの支援が「永遠ではない」とみているが、専門家や元IMF幹部は、ウクライナの地政学的重要性を鑑みれば、経済の脆弱(ぜいじゃく)性や東部での紛争を抱える同国は結局外国の支援に頼らざる得ないとみている。

欧米が中心となって出資しているIMFはこのほど、ウクライナに対する175億ドルの支援プログラムを承認した。このうち100億ドルは年内に融資が実行される。

ウクライナはまた、今後4年間で総額400億ドルに及ぶ支援パッケージの一環として、向こう18カ月かけてその他の機関から75億ドルの融資も受け取る。

米外交問題評議会のロバート・カーン氏は「ウクライナがIMFからの支援を含め、追加の国際支援が必要となることを私は恐れている」と指摘。ウクライナやギリシャに関し「私はIMFが政治的要素を含んだ案件に引き込まれていると考える」とした上で、「これはIMFの権限から大きく逸脱するものだ」と述べた。

ギリシャ問題では、IMFは危機がユーロ圏全体に及びかねないとの懸念から同国の救済で基準を引き下げることを承認。IMFの公平性に疑念を生じさせている。

もう1つの例は米国の同盟国であるパキスタンだ。同国は総額で少なくとも260億ドルとなる21度目の支援プログラムを受けている。これまで成功裏にプログラムを終えたのは7件、2000年以降はわずか1件にとどまる。

IMFの独立評価機関(IEO)は2002年の報告書で、国際社会からIMFに「承認印」を押すよう迫る圧力がかかるため、パキスタンといった中所得国は長期に及ぶプログラムを受ける傾向にあると指摘した。

IMFは大枠でこうした指摘を認め、定期的に「長期利用」国を評価し、プログラム設計を改善すると約束。だが、IEOは2013年、問題の一部は依然として続いていると指摘した。

IMFは19日、この問題に対するコメントはしなかったものの、ウクライナの新政権は過去に比べはるかに改革にコミットしていると強調した。

<「金融危機時の消防士」>

IMFは1944年の設立当時、危機があれば駆け付け、危機が終われば去るという「金融危機時の消防士」になることが想定された。しかし、時間の経過とともにそうした理想像は色あせ、汚職や非効率な税制、肥大化した公的部門の解消に取り組む「構造改革」支援プログラムを繰り返し、中には数十年に及ぶ長期のプログラムにかかりっきりとなっている。

プログラムを受けた最近の36カ国のうち、キプロスを除く全ての国が1992年以降、少なくとも1度の融資をIMFから受けている。また、借り入れ国の53%はここ20年間のうち少なくとも10年間、IMF資金を利用している。

この1年間でウクライナの通貨は過去最安値に下落し、金利は15年ぶりの高水準を付け、準備は縮小した。

ウクライナのヤレスコ財務相は、IMFの資金が国内の経済成長回復に不十分である可能性を認め、米国に追加金融支援を求めている。一方で、数年で金融市場に復帰し、緊急支援から脱却するとも述べた。

同相は今週、訪問先のワシントンでロイターに対し、「IMFはわれわれのプログラムの中で非常に重要な地位を占めているが、それは永遠ではない」と指摘。IMFはウクライナに多額の融資を行うため、同国の債務は「高い確率」で持続可能であることを示す必要がある。

外部のエコノミストによると、ウクライナの債務は持続可能ではなさそうだ。昨年のウクライナ向けプログラムでは、IMFは同国経済が2014年に1.0%成長すると見込んでいたが、その後6.9%のマイナス成長に下方修正した。15年の見通しは5.5%のマイナス成長としているが、これですら楽観的とみられている。

元IMF理事会メンバーのドメニコ・ロンバルディ氏は「ウクライナにはIMFしか残されていないが、プログラムが問題なく完了する確率は低い」と述べた。

(Anna Yukhananov記者 翻訳:川上健一 編集:加藤京子) 

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