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アングル:パウエルFRB議長、インフレ否認から受容への5段階

米連邦公開市場委員会(FOMC)は6月14日、11会合ぶりに政策金利を据え置き、米国の金融政策は大きな節目を迎えた。写真はパウエル連邦準備理事会(FRB)議長。同日、ワシントンで撮影(2023年 ロイター/Kevin Lamarque)
[ワシントン 14日 ロイター] - 米連邦公開市場委員会(FOMC)は14日、11会合ぶりに政策金利を据え置き、米国の金融政策は大きな節目を迎えた。委員らはなお年内に最大0.5%幅の追加利上げを予想してはいるが、今回の決定で新型コロナウイルスのパンデミックによる経済的影響への対応に一定の区切りがついたのは間違いない。
ここまでの道のりを振り返ってみよう。
人が不幸な出来事に遭った際の「受容過程」を示す枠組みを使い、パウエル連邦準備理事会(FRB)議長の言葉遣いの変化をたどると、物語が見えてくる。
<否認>
インフレ率はまだFRB目標の2%を下回っていたが、上昇を始めていた。2021年3月17日の記者会見で、過剰貯蓄と過剰支出の可能性について記者から問われたパウエル氏は「物価が一時的にある種の膨張を示したことが後に判明するだろう。ただ、これで将来のインフレが変化するわけではない」と答えた。
<怒り>
公の場で冷静沈着過ぎるとも言われるパウエル氏を形容する言葉として、「怒り」は強すぎるかもしれない。しかし、議長が最初に「一過性」と表現したインフレは瞬く間に悩ましい現象となり、2021年7月28日の記者会見で議長は一過性の具体的な意味を追求された。
議長の答えはこうだった。「『一過性』とは本当にその言葉通りの意味だ。物価上昇が起こること。それが反転するとは私たちは言っていない。一過性とはそういう意味ではない。その意味は、物価上昇が起こる、すなわちインフレが起こるが、そのインフレ過程は止まるだろうということだ」
<取引>
年次「ジャクソンホール会議」の記者会見でパウエル氏は、インフレが今より執拗(しつよう)になった場合に何が起こるかを体系的に説明した。ただ議長の焦点は依然として、米労働市場をパンデミックの傷から癒やすことにあった。2021年8月27日の講演で、議長はFRBの2つの責務のバランスを取る発言をしている。「失業の期間が長引くと、労働者に、そして経済の生産性に長く傷を残すことをわれわれは知っている。しかし、一過性の要因によるインフレは必ず消滅すると、中央銀行がたかをくくってはならないことも歴史は教えている」
<抑うつ>
パウエル議長がインフレの判断基準を示した途端、賃金その他のデータが悪い方向に動き出したのは、議長にとって最悪の時期だっただろう。2021年9月22日に終わったFOMC後の記者会見の冒頭発言は降伏宣言のように読める。「経済の再開と支出の回復が続くにつれ、物価上昇圧力が生じている。その特筆すべき理由は、一部セクターで供給ボトルネックが起こり、短期的には生産が(需要に)素早く対応できないことだ。このボトルネック現象は予想以上に大きく、長引いており、(FOMC)参加者のインフレ予想の上方修正につながっている」
<受容>
2022年3月までには、FRBはパンデミック期の債券購入プログラムを段階的に終了し、利上げを始めていたが、インフレは加速を続けた。FRBは利上げスピードを加速させ、議長は2022年6月15日にこう説明した。「予想に反し、インフレは再び予想外に上振れした。一部のインフレ予想指標も上昇し、今年の(インフレ)見通しは著しく引き上げられた。従ってわれわれは、今回会合で力強い行動が正当化されると考え、75ベーシスポイント(bp)の利上げを実施した」
<罪の意識>
「怒り」と同様、「罪」という言葉も強すぎるかもしれない。だがパウエル氏は次第に、FRBがインフレ見通しを読み間違えたことを素直に認めるようになり、労働市場に害が及ぶのは必要悪かもしれないと、率直に口にし始めた。
2022年8月26日のジャクソンホール会議では「金利上昇と成長鈍化、労働市場環境の緩和によってインフレ率は下がるだろうが、家計と企業に一定の痛みをもたらすだろう。これはインフレ抑制による残念なコストだ」と語った。
<再建>
インフレの最終章はまだ書かれていない。FRBが重視する指標では、インフレ率はなお2%目標の2倍で推移している。しかし議長は14日の記者会見で、物価上昇が減速し、失業率が低水準を保ち、利上げサイクルが終わりに近づいていることにある程度の安心感を示した。「SEP(FOMCメンバーによるマクロ経済変数の予測値)によると、大半の人々の状況が目的地からそう遠くなくなっている」と議長は述べた。