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アングル:日銀が長期金利上昇を静観、市場機能優先

2018年10月05日(金)19時19分

 10月5日、米国の金利上昇を受けて、足元では日本の長期金利にも上昇圧力がかかっている。写真は都内の日銀本店、2013年12月撮影(2018年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 5日 ロイター] - 米国の金利上昇を受けて、足元では日本の長期金利にも上昇圧力がかかっている。この状況下で日銀は、市場機能の改善を促す観点からも、緩やかな上昇ペースによる長期金利の一定程度の上昇を容認するとみられる。長期金利の誘導目標であるゼロ%程度の範囲を逸脱しない限り、超長期ゾーンの金利には一段の上昇余地がありそうだ。

日銀は7月31日の金融政策決定会合で、鈍い物価上昇を踏まえて金融緩和政策の持続性を高めることを狙って、現在「ゼロ%程度」としている長期金利の誘導目標について「経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうる」とし、市場機能に配慮して上昇を容認する姿勢を示した。

黒田東彦総裁は同日の会見で、それまでゼロ%を中心に上下0.1%となっていた長期金利の変動幅について「その倍程度に変動し得ることを念頭に置いている」とし、上下0.2%程度の変動を許容する考えを表明した。

4日の円債市場では、前日の米利上げの継続観測を背景とした米長期金利の大幅上昇を受け、日本の長期金利も上昇。一時、2016年9月の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)政策の導入以降で最高水準となる0.155%を付けたものの、日銀は静観した。

長期金利の変動容認を決定した直後の8月2日に長期金利が0.145%まで急上昇した際には、市場にとって想定外の国債買い入れを実施して抑制を図った。今回はその水準を上回ったにもかかわらず、オペで金利上昇の抑制に動くことはなかった。

背景には、長期金利の水準自体が黒田総裁が示した上限の範囲内に収まっていることに加え、今回の変動幅は0.02%程度と、米金利の急上昇に比べて上昇テンポが緩やかなことがありそうだ。

これまでは、海外金利の上昇に連動した長期金利の上昇をけん制してきた日銀だが、7月末の決定を踏まえ、市場機能の改善を優先し、米金利に対する一定の追随も容認したかたちだ。

もっとも、依然として物価は目標の2%には遠く、日銀では長期金利がゼロ%程度の範囲から逸脱することがないよう、市場動向を慎重にモニターしていく方針。黒田総裁が指摘した「倍程度」の具体的な水準は明らかではないが、長期金利が0.2%前後に上昇する局面では緊張感が高まる可能性が大きい。

<超長期、フラット化の修正過程>

他方、7月末の決定以降、相対的に大きく金利が上昇しているのが、残存期間10年超の超長期ゾーンだ。

4日の市場では一時、20年利付き国債利回りが17年2月22日以来の0.690%、30年国債が16年2月24日以来の0.950%、40年国債は16年2月22日以来の1.115%と大幅に上昇した。

それでも日銀では超長期ゾーンについて、これまで大きくイールドカーブがフラット化してきた修正過程にあると位置づけているとみられ、日銀関係者は、長期金利が目標のゼロ%程度で推移している限り「超長期利回りは、さらに上昇する余地がある」と指摘する。

日銀は9月21日、「残存25年超」の国債買い入れを500億円とし、100億円の減額に踏み切ったが、今後の市場動向次第では「残存期間10年超25年以下」を含めて減額が検討される可能性がありそうだ。

東短リサーチ・チーフエコノミストの加藤出氏は、超長期金利は日銀の誘導目標ではないとし「超長期はデュレーションが長いので、バランスシートに残る期間も長く、日銀としてはあまり買いたくないだろう」と指摘している。

(伊藤純夫 木原麗花 編集:田巻一彦)

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