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焦点:スマホ向け部品減少、4月鉱工業生産の重し IT設備が新主役へ
5月31日、日本国内の生産動向に対し、電子部品分野における勢力図の変化が大きな影響を与えている。2015年2月撮影(2018年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 31日 ロイター] - 日本国内の生産動向に対し、電子部品分野における勢力図の変化が大きな影響を与えている。これまでの主力だったスマートフォン向け電子部品輸出の減少傾向が鮮明化。4月生産は全体として伸びが鈍化したが、半導体やフラットパネルの製造装置などIT設備投資関連の資本財が新しい「主役」として台頭してきた。
ただ、知的財産権を中心にした米中貿易摩擦が激化する可能性もあり、新しい主役がそのまま拡大していけるのか、不透明な要素も残されている。
<弱い4月生産、スマホ向け部品の減少が影響>
4月生産が市場予想を下回り、5、6月の先行きも弱めの数字が出ている。その背景として、電子部品の生産減少が大きく影響している。4月の電子部品生産は、前月比5.6%減。モス型メモリーや、アクティブ型液晶素子など、コンデンサーなど、スマートフォンやパソコン、テレビ向けの部品が落ち込んだ。
特に中国向けは、輸出統計でみてもメモリーの輸出数量が1-3月期の前年比8.4%増から4月は8.9%減に落ち込んだ。出荷も減少し、5、6月の生産計画に当たる「予測指数」はいずれも前月から下方修正されている。
ジャパンディスプレイ<6740.T>は、スマートフォン向けディスプレー需要の減少で1-3月期売上高は前年比37%減だった。中国におけるスマートフォン出荷急減に加え、主要顧客が有機ELを採用したこと、市場の競争激化などを背景として挙げている。「4-6月期もさらに落ち込む見通しで、売上高は前期比で3割減となる見通し」と弱気に見通しを立てている。
こうしたミクロベースの生産減少の流れが、4月鉱工業生産というマクロベースのデータに表れた格好だ。
<大幅に増加するIT関連の資本財生産>
だが、これまでの主力だったスマホ向け部品生産の「退潮傾向」とは対照的に、半導体やフラットパネルの製造装置といったIT設備投資関連の資本財の生産の割合が、大幅に上昇する動きをみせている。
4月生産統計で、フラットパネル・ディスプレー装置の生産が前月比34%の大幅増となった。日本から中国向け半導体製造装置の輸出は、今年1─3月期に前年同期比3割を超える増加となっていたが、4月は2倍超へと勢いが加速した。
半導体洗浄装置やディスプレー製造装置を手掛けるSCREENホールディングス
<7735.T>は、需要状況について「IoT(モノのインターネット)の普及などを背景に、スーパーサイクルに入っている」とみている。
今やIT化の流れが世界共通。IoTや人口知能、仮想通貨などの広がりに欠かせないデータセンターやセンサーといった需要などが、急速に伸びている。日本の生産・輸出もそうした世界のトレンドを取り込み、IT関連の主役が急速に入れ替わってきた。
<懸念される米中貿易摩擦の影響>
この流れに「横やり」となりそうなのが、足元で急浮上している米中貿易摩擦への懸念。ただ、今のところ、その打撃は表面化していない。
三菱電機<6503.T>の杉山武史社長は、4月のインタビューで、米トランプ政権が産業用ロボットなど中国製品に制裁関税を課す方針を打ち出したことに関連し「米政策によって(産業用ロボットの)需要が一時的に落ち込んだとしても、それが長期にわたることは多分ない」との見方を示し、同社が中国などで計画している工場の自動化投資も、旺盛な需要を背景に「現時点で投資計画を見直すことは考えていない」と話していた。
電子部品における主役交代の動きと、米中貿易摩擦の動向は、日本の生産と企業にどのような影響を与えるのだろうか。
専門家の間では、IoT化の流れは加速するとの見方が多い。ただ、トランプ米大統領が中国のIT化に関し、知的財産権保護を理由に制裁を強化しようとしていることもあり、スマートフォンやIoTも含めて、今後の動向は予断を許さないとの予想が多い。
生産の先行き予測指数が、従来より下振れしたこともあり「貿易戦争懸念などで、企業が先行きに不安を抱き、生産計画を慎重化した可能性が考えられる」(SMBC日興証券・シニアエコノミスト、宮前耕也氏)といった指摘も出てきた。
(中川泉 志田義寧 編集:田巻一彦 )