ニュース速報

ビジネス

アングル:米レパトリ減税、長期的ドル安の反転は期待薄

2017年12月12日(火)08時04分

12月8日、米共和党の税制改革法案により、企業が海外に持つ利益の本国還流(レパトリエーション)が促され、ドルの長期的な下落に歯止めが掛かると予想している投資家は、期待を裏切られるかもしれない。写真はトルコの両替所で11月撮影(2017年 ロイター/Sertac Kayar)

[ニューヨーク 8日 ロイター] - 米共和党の税制改革法案により、企業が海外に持つ利益の本国還流(レパトリエーション)が促され、ドルの長期的な下落に歯止めが掛かると予想している投資家は、期待を裏切られるかもしれない。

企業は現在、35%の米法人所得税を回避しようと、海外子会社に利益を滞留させたままにしている例が多い。こうした利益は約2兆6000億ドルに上る。現在通過している下院法案は本国還流分への税率を14%に、上院案は14.49%に、それぞれ引き下げる内容だ。

しかし、減税が法制化されたとしても、企業が急いで利益を本国還流させるインセンティブは乏しい上、大企業の多くは既に海外利益をドル建て証券に投資しているため、減税が長期的に見てドル高に作用するとは限らない。

ジョージ・W・ブッシュ政権は2004年、1年間の時限措置として税率を5.25%まで大胆に引き下げ、ウニクレディトの試算では約3000億ドルが米国に還流。米連邦準備理事会(FRB)による積極的な利上げも重なり、ドルは翌年13%近くも上昇した。

しかし、今回の減税は恒久措置であるため、企業は急いでレパトリを実施する必要がない。

TDセキュリティーズによると、期間は定かでないが、最大2500億ドルが還流する可能性がある。アナリストによると、これによってドルは多少押し上げられるかもしれないが、4兆5000億ドルに及ぶ世界の外為市場では大きな要因となりそうにない。

主要6通貨に対するドル指数<.DXY>は年初から8.1%程度下落している。

米大統領選でトランプ氏が勝利した昨年11月には、減税への期待などからドルが上昇していた。上下両院で減税法案が通過した今、「ドル強気派のお囃子が再開した」(ウニクレディトのアナリストチーム)。

しかしスコシアバンクの首席FXストラテジスト、ショーン・オズボーン氏は「大量の本国還流が起こったとしても、直接的なドル高要因にならないかもしれない。一部の大企業は多額の現金をドル建て資産で保有しているからだ」と言う。

多くの場合、海外利益は米銀の口座にドルで預金されているが、企業のバランスシート上は海外資産として扱われている。

ブルッキングス研究所の推計では、海外の現金残高で見た米企業上位15社は、海外利益の95%をドル建ての現金あるいは現金相当資産で保有している。

例えばマイクロソフトの6月末時点の年次報告書には、海外子会社の現金および短期資産の約92%が既にドル資産に投資されていることが明記されている。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのグローバル金利・通貨調査責任者、デービッド・ウー氏は「税制改革法案が通過した直後には、資金が急速に本国に向かう」と予想。しかし、減税による米財政赤字への懸念などから、ドルの上昇は来年第2・四半期までには息切れするとの見方を示した。

ウェルズ・ファーゴ・アセット・マネジメントのマルチ資産ストラテジスト、ブライアン・ジェーコブセン氏も、減税は既に織り込み済みで、長期的に見ればドルは下落を続けると予想した。

(Gertrude Chavez-Dreyfuss記者 David Randall記者)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、スパイ活動で12人摘発 ロシアに軍事位

ビジネス

米政権、LNG輸出の影響調査公表 家庭料金上昇もた

ワールド

デンマーク、反捕鯨活動家を釈放 日本の引き渡し要請

ビジネス

米イーライ・リリーのアルツハイマー病治療薬、中国で
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 2
    揺るぎない「価値観」を柱に、100年先を見据えた企業へ。
  • 3
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが物議...事後の悲しい姿に、「一種の自傷行為」の声
  • 4
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 5
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 6
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 7
    爆発と炎上、止まらぬドローン攻撃...ウクライナの標…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    ウクライナ侵攻によるロシア兵の死者は11万5000〜16…
  • 10
    ChatGPT開発元の「著作権問題」を内部告発...元研究…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 3
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 4
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 5
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 6
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 7
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 8
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 9
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 10
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 6
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中