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焦点:アナリスト新指針で投資情報に懸念、企業側の開示がカギ

2016年07月21日(木)19時13分

 7月21日、株式調査を行う証券会社のアナリストに対する規制が強化され、アナリストは原則として未公表の企業決算情報について取材できなくなる。写真は都内のトレーディングルーム、2月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 21日 ロイター] - 株式調査を行う証券会社のアナリストに対する規制が強化され、アナリストは原則として未公表の企業決算情報について取材できなくなる。

市場の公正性を高める狙いだが、情報を出す側の企業が、開示していい情報について過度に慎重になり、投資家への情報量が減る懸念も浮上。今後は企業の情報開示を抜本的に促すための新たなルールや、東証の開示ルール強化といった対応もカギを握りそうだ。

日本証券業協会は20日、「発行体への取材等及び情報伝達行為に関するガイドライン」を発表した。アナリストは、未公表の決算期の、1)業績に関する情報、2)業績以外に関する定量的情報のうち業績が容易に把握できる情報を企業に取材してはならない──となる。

協会は早ければ10月にガイドラインを実施する予定。罰則規定はないが、協会や証券会社内の規則に抵触すれば最終的に、資格のはく奪や解雇などの処分を受ける可能性はある。

日証協ではこれまでも、アナリストリポートに関するルールを規定していた。しかし、ドイツ証券、クレディ・スイス証券のアナリストが、会社から聞いた未公表の決算情報を特定の顧客だけに提供、勧誘した不祥事があったことを受け、ガイドラインの策定を急いだ。

今回のガイドラインからは、アナリストが取材する情報が制限されるほか、入手した未公開情報がリポートにならなくても、証券会社内で「適切に管理」することが求められる。たとえ重要情報でなくても、投資判断に影響を与える可能性があれば、顧客(投資家)に伝達はできない。

一方、アナリストは未公表の決算期の業績とは関係のない情報や、未公表の決算期の情報であっても、業績以外の定性的な情報や、来期以降の通期や中期経営計画など、先の長い予想については取材できる。

<一部は対応、試行錯誤の段階>

外資系証券アナリストの不祥事をふまえ、すでに変化も生じている。大半の証券会社のアナリストは、四半期の決算プレビューのリポートを発行しなくなった。各証券会社が社内規定で今回のガイドラインの方向性に沿うよう、舵を切り始めたからだ。

ある日系証券のアナリストは「大企業はわれわれ(アナリスト)に話せること話せないことが何かに敏感だが、中堅企業は今回の変化が起きていることを知らず、どんどん話してくることがあり、困ることもある」と、企業間の応対の違いも指摘する。

こうしたなかで一部企業は情報開示の方法を変えつつある。

オムロン <6645.T>は、月次売上高の数値をホームページ(HP)で開示していたが停止。アナリスト向けの決算プレビューのミーティングも止めた。アナリストがプレビューリポートを書かなくなったのに呼応する。

同社のコーポレートコミュニケーション部によると、代わりに商品に関するセミナーや業界についての説明会を開催するようになった。「短期で一喜一憂するのではなく、中長期の目線で会社を理解してもらいたい」という。

ある機械メーカーは4─6月期決算からアナリストとの電話会議を開催しないことにした。これまで、地域別の業績の数字などはHPに開示せず、面談や電話会議で伝えていたが、HPで開示することにしたため、電話会議の意味がなくなったという。

HPへの開示は四半期ごとにしていく予定だが、「ずっとこの形でやるかは賛否がある。見極めながら判断する」(広報担当者)とも話し、試行錯誤の様相もある。

<上場企業の開示、フェア・ディスクロージャーの議論も>

上場会社に課せられる開示ルールには、東証のルールがある。ある衛生陶器会社のIR担当者は「現時点では上場企業としては東証の開示ルールを守っていればよいのではないか」との見解だ。

一方、金融庁は、上場企業が未公表の情報を限られた第三者に開示することを禁じる「フェア・ディスクロージャー(FD)ルール」の導入を検討することを決めているが、導入時期などについては現時点で決まっていない。

コーポレートガバナンス・コードで企業と株主のエンゲージメント(対話)が重視されるなかで、企業サイドの情報発信を委縮させないためにも、FDの必要性を指摘する声は根強い。

野村総合研究所の上級研究員、三井千絵氏は、FDの議論も同時に進めなければ、「聞かないルールばかりが先行し、企業の情報開示への積極性を損ねる恐れがある」と懸念する。そのうえで「FDは企業側に公正な開示を求めるルールなので、本来あわせて行われるべきではないか」と話す。

グローバルに展開する資産運用会社が日本株へのアクセスを増やすなかで、「アナリストへの情報伝達ガイドラインができたからと言って、(日本企業が)アナリストや投資家などからの取材や面談を拒否する口実にはならないだろう」(ACGAのジェイミー・アレン氏)と、企業側の積極的な情報発信を求める声がでている。

(江本恵美、トム・ウィルソン 編集:石田仁志)

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