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G20版「3本の矢」、具体策なく市場は冷ややか

2016年02月29日(月)16時50分

 2月29日、20カ国財務相・中央銀行総裁会議(G20)の声明に、市場の反応は冷ややかだ。写真は都内で撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 29日 ロイター] - 20カ国財務相・中央銀行総裁会議(G20)の声明に、市場の反応は冷ややかだ。景気下振れを防ぐために金融、財政、構造改革の3つの政策を総動員するとしたが、具体策の合意はなかった。各国の経済状況が異なるため、政策的な協調は難しいとみられている。足元の米経済指標が好調でリスク回避傾向は後退しているが、楽観ムードは乏しい。

<政策協調の高いハードル>

「『あらゆる』という言葉を使うときは、具体策がないときだ」(外資系証券エコノミスト)──。

上海で開かれたG20は27日、声明文で均衡の取れた成長や市場の安定などG20の経済目標の達成に向けて「個別および集団的に、金融、財政、構造上のあらゆる政策手段を活用する」と表明した。しかし、具体的な政策は示されず、市場の反応は鈍い。

週明けの東京市場で、日経平均<.N225>は朝方250円超高まで上昇したが、次第に失速、午後はマイナス圏に沈んだ。ドル/円も一時114円付近まで上昇したものの、再び軟化し113円を割り込んでいる。

金融政策、財政政策、構造政策(成長戦略)という政策ミックスは、日本のアベノミクスの旧3本の矢の柱と同じ構成だ。しかし、1国の政策ならともかく、20カ国が協調して行うような横断的な政策は難しいとの指摘が市場では多い。

「比較的高金利な国もあれば、マイナス金利の国もある。財政赤字の度合いも違う。構造問題は国ごとにバラバラだ。効果的な具体策の策定はアベノミクスよりも期待しにくい」とHSBC証券東京支店・グローバル・マーケッツ債券営業本部マクロ経済戦略部長の城田修司氏は話す。

金融緩和策には金利低下などの効果があるものの、各国がそろって金融緩和してしまえば「通貨安」の効果は失われる。財政状態の悪い国が歳出を膨らませれば債務問題が浮上することになり、市場のリスク回避行動を通じて他国にも影響が及ぶ。市場が期待するのは政策協調だが、協調は具体策になるほど難しい。

<「事前通知」ならサプライズは困難に>

日本にとっても、G20の合意内容は政策を縛ることになりかねないとの懸念が市場で目に付く。

ユーロ圏財務相会合のデイセルブルム議長はG20終了後、記者団に対し、為替相場の下落につながるような政策決定を行う際に、事前に通知することで合意したを明らかにした。日本や中国などが競争的な通貨切り下げを行うことを一部のG20当局者が懸念したことが、今回の決定の背景にあると説明した。

みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「日本の為替政策に関して、警戒心を持って受け止められているということだろう。日銀がマイナス金利幅を拡大することに対してブレーキがかかることになり、事前通知が必要になったことで、サプライズ緩和がやり難くなった」との見方を示している。

黒田東彦日銀総裁は、G20会議終了後の記者会見で、マイナス金利付き量的・質的金融緩和は金利面で効果が現れているとG20で説明し、理解を得られたと述べたが、市場では懸念がくすぶる。

<焦点は「全人代」に移行>

米国の経済指標が改善を示し、マーケットの悲観論はいく分後退している。

10─12月期の米国内総生産(GDP)改定値は、在庫増と輸入減という喜べない要因が上方修正の要因だったが、1月の個人消費支出は前月比0.5%増と堅調。食品とエネルギーを除いたコア個人消費支出(PCE)価格指数は、前年比1.7%上昇と4年ぶりの大きなプラスとなり、米連邦準備理事会(FRB)が目安としている2%に近づいた。

1月の耐久財受注は前月比4.9%増と、昨年3月以来10カ月ぶりの高い伸び。幅広い分野で需要が増えており、低迷していた製造業に底入れの兆しが出てきたとの指摘も出ている。

年初からの世界的な株安(リスクオフ)は、「一本足打法」と言われた米国経済でさえスピードダウンするのではないかという懸念が1つの要因だった。だが、米経済指標の改善とともに市場センチメントも持ち直している。

しかし、29日の市場では、上海総合指数<.SSEC>が一時4%以上急落し、日本株など他のアジア株の重しとなった。中国株市場からの資金流出懸念だけでなく、自国で開催されるG20において、中国から何らかの経済対策が出るとの期待が肩透かしとなったことが一因だ。

週末には中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が控える。「G20で政策を発表しても、埋もれてしまう。目立たせるなら全人代」(外資系証券)との声もあるが、4兆元投資の後遺症に悩む同国から、どれだけの経済対策が出てくるかには不透明感も強い。

G20の声明では「最近の市場変動の規模は世界経済の現在のファンダメンタルズ(基礎的条件)を反映していない」とされた。果たして市場が「間違っている」のか。市場参加者は、G20の「3本の矢」の中身を見極めようとしている。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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