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焦点:米マクドナルドの「抗生物質使用」中止、代償は養鶏業界に

2015年03月09日(月)16時41分

 3月8日、米マクドナルドは人間にも使用される抗生物質を投与したニワトリの肉の使用を段階的に中止していくと発表したが、この方針は、養鶏業界に打撃を与えることになるだろう。写真は同社のチキンナゲット。4日にニューヨークの店舗で撮影(2015年 ロイター/Shannon Stapleton)

[シカゴ/ロサンゼルス 8日 ロイター] - 米マクドナルドは先に、米国内の店舗を対象に、人間にも使用される抗生物質を飼育時に投与したニワトリの肉の使用を段階的に中止していくと発表した。この方針は、養鶏業界にコスト増などの打撃を与えることになるだろう。

マクドナルドが今後2年をかけて実施するというこの方針は、鶏肉供給業者に最大3%のコスト増を余儀なくさせる。また、マクドナルドの方針に沿うには予定されている2年では間に合わない可能性もある。米鶏肉生産会社パーデュー・ファームズはロイターに対し、そうした変更には10年以上かかり、多額の費用がかかると述べた。同社は、米食肉加工最大手タイソン・フーズが扱う約3分の1の鶏肉を供給する。

モーニングスターのR・J・ホットビー氏を含むアナリストは、方針転換で増えたコストを顧客に転嫁するのを避けるため、マクドナルドは世界最大規模のレストランチェーンとしての影響力を行使すると指摘する。

マクドナルドの北米サプライチェーン担当シニアバイスプレジデント、マリオン・グロス氏は、同社にとってどれくらいのコスト増になるかは明らかにしなかった。むしろ今回の措置は顧客の要望に応えるための「投資」だとロイターに語った。

家畜への抗生物質の使用自体は合法だが、感染防止や成長促進を目的に、人間にも使用する抗生物質を慣行的に投与することについては批判の声が高まっていた。

抗生物質の過剰投与により、薬剤耐性菌「スーパーバグ」が生まれることへの懸念も高まっている。ロイターが昨年調べたところでは、米国の主要な養鶏業者は、規制当局が把握しているよりもはるかに広範囲に抗生物質を使用していた。

養鶏業界は、耐性をもったバクテリアが人間に感染する証拠はほとんどないという見解を維持している。しかし、顧客の懸念に配慮するレストランや小売業者は増えている。

米小売業界3位で会員制倉庫型業態のコストコ・ホールセールは、年間8000万羽分のローストチキンを販売している。同社の食品安全担当バイスプレジデント、クレイグ・ウィルソン氏は5日、医学的に重要な抗生物質が投与されていない鶏肉の使用に「非常に前向き」だとした上で、そうした鶏肉の供給確保は困難であり、具体的な予定はないと語った。

<代償を払うのは誰か>

抗生物質の投与中止で増えるコストの一部は、フランチャイズ加盟店が負担することになるかもしれない。鶏肉価格の上昇を相殺するため、労働時間の短縮や光熱費削減などを余儀なくされる可能性が出てくるだろう。

しかし多くのアナリストは、マクドナルドは鶏肉供給業者に負担を押し付けると予想する。それに抵抗できるほどの市場支配力が鶏肉業者にはないとみられるからだ。全米養鶏協会によると、米鶏肉処理大手4社の国内市場シェアは約53%だという。

前述のモーニングスターのホットビー氏は、マクドナルドが供給業者に多大な影響力をもっており、業者の一部は生き残るため同社に依存していると語った。

タイソンとブラジルの食品加工会社マルフリグ・グローバル・フード傘下の米キーストーン・フーズはロイターに対し、医学的に重要な抗生物質の投与を著しく減らし、マクドナルドと他の顧客のニーズに応えるとしている。ただ、現在どのくらいの量の抗生物質を使用しているかについての質問に対しては、両社とも回答を差し控えた。

<時間を要する変化>

鶏肉生産業界4位パーデューの食品安全担当シニアバイスプレジデント、ブルース・スチュワートブラウン氏は、同社では2002年から、成長促進剤として使われていた抗生物質の投与を減らし始めたと明かした。現在同社が生産する鶏肉の95%以上は、人間にも使う抗生物質の投与は行われておらず、50%以上は抗生物質が全く使用されていないという。

このような移行には、予想以上に高い鶏の死亡率や養鶏小屋の増築、年間400万ドル以上のワクチン費用などを伴う。また、抗生物質なしの飼育で出荷できる体重に達するまでには、通常3─9日ほど長い日数がかかるという。マクドナルドが設定した2年という期限は「正しく行うには実に短い期間」だとスチュワートブラウン氏は語った。

農業コンサルティング会社ファームイーコンのトム・エラム氏は、抗生物質を投与しない鶏の飼育により長い時間がかかるということは、結果的に高い飼料費と死亡率につながり、より多くの卵をふ化させる必要に迫られると指摘。「バイオセキュリティーに甘い企業は問題を起こすだろう。こうした変化は無償では済まない」と語った。

(P.J. Huffstutter記者、Lisa Baertlein記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)

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