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焦点:米国がドル高容認を微調整、他国の過剰な緩和依存にクギ

2015年02月26日(木)18時14分

 2月26日、「強いドルは常に国益」と言ってきた米国のドル高容認姿勢に、微妙な変化が見られている。2011年8月撮影(2015年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 26日 ロイター] - 「強いドルは常に国益」と言ってきた米国のドル高容認姿勢に、微妙な変化が見られている。ドル高が機能するのは他国が内需拡大を遂行している時のみとして、金融緩和への過剰依存にくぎを刺し、政策のバランスを強調し始めた。

背景には、利上げに向けた地ならしのほか、環太平洋連携協定(TPP)妥結に向けた思惑や、ドル高で業績が圧迫されている企業への配慮など複合的な要因があるとみられる。

<2月G20でのルー発言>ルー財務長官は、イスタンブールで今月12日に開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で「ドル高は周辺国が成長策を進めている時は機能するが、海外の需要が落ちるとグローバルに展開する米企業はダメージを受ける」との見解を示した。

同長官は、内需拡大政策を打たないまま、通貨切り下げ競争をする国々をけん制し、米国経済は危機を脱したが、他の国はまだ経済成長の促進が必要だと指摘。欧州に対し、金融政策の効果を高めるために「財政政策」をさらに活用すべきだと主張した。

「同様の圧力は、日本に対してより強く表れる。あるいは、水面下で既に表れている可能性がある」(国内エコノミスト)という。

また、今月18日に公開された1月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、ドル高は純輸出を抑制する根強い要因と言及され、一部のメンバーはドル高が一段と進む「リスク」があると指摘していたことが明らかになった。

<米利上げの地ならし>

金融政策との関連では、ドル高によるインフレ抑制効果が米連邦準備理事会(FRB)のインフレ目標達成を困難にしている。

FRBのイエレン議長は、25日の下院金融サービス委員会で「ドルを理由とした輸入物価の下落および原油価格の低下によって、インフレ率は加速する前に減速する見通し」と述べた。

また、24日の上院銀行委員会での証言では、利上げを決断する前に、インフレと賃金の上昇を確認したいとの見解を表明。今は2%のインフレ目標を「大きく」下回っているとした。

米国のみが金融引き締めサイドで、日欧その他が金融緩和に焦点を当てれば「ドル高/諸通貨安という状況を招きがちであり、米国ではインフレ目標の2%達成を遠ざける結果を招く」と三井住友銀行・チーフストラテジストの宇野大介氏は指摘する。

こうした状況下では「明白にはドル高懸念を示さず、金融緩和の結果として通貨安を利用して景気浮揚を図ろうとする他国の金融緩和策をけん制するのも米国の選択肢であり、FRB議長の質疑応答からは、そのような意図も垣間見られた」と宇野氏は見る。

米サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は、24日の日経新聞に掲載されたインタビューで、米経済成長率は10年ぶりに3%成長を達成するとの見通しを示したうえで、ドル高の逆風がなければ「3.5%の成長もありうる」と語った。

<ドル高の逆風受ける米グローバル企業>

ドル高容認姿勢のニュアンスの変化には、米企業に対する配慮もありそうだ。

マクドナルド、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、アップル、IBM、コカ・コーラ、イーベイ等の米グローバル企業では、売り上げの少なくとも50%が米国外で計上されており、こうした企業から米議会への圧力も無視できない。

米国外の売上高が65%を占めるP&Gの最高財務責任者モラー氏は、2015年6月期(通期)決算で、ドル高が利益を12%押し下げる見込みだと発表した。打撃を受けている販売国として、通貨が急落したロシアやアルゼンチンと並び、日本を挙げた。

米フォーブス誌が19日に伝えたところによると、ドル高で海外依存度の高い米企業は深刻な打撃を受けており、イーベイはドル高による収益減が今年6億ドルに上ると予想。アマゾンはドル高で9億ドル近い売上減を報告し、今四半期も5%の売上減を見込んでいる。

<1990年代との差異>

米国はこれまでのところ、円安は金融緩和の結果として生じたもので「為替レートを直接的な政策目標にしていない」という日本の主張に理解を示している。しかし「TPP交渉妥結に向けて米議会から対日通商圧力が増すなか、理解の度合いが後退してもおかしくない」(国内エコノミスト)との見方も出ている。

ただ、通商交渉をめぐる駆け引きが、1990年代前半に表面化したような明示的な為替圧力にエスカレートする可能性は乏しいとみられている。

米国は、第1期クリントン政権・前期(1993―94年)において、日本の貿易黒字を是正するために内需拡大を求め、その揺さぶりとして、当時財務長官を務めていたロイド・ベンツェン氏などの要人から、円高容認発言が繰り返された。

1993年2月19日、ベンツェン長官は、ワシントンでの講演後の質疑応答で「一層のドル安を望むか」と質問され、「より一層の円高を望む」と返答。その理由に関し「(米国製品)の輸出促進に役立つから」とした。

長官発言前に119円前半だったドルは、2日後に116.30円と円高方向に約3円シフト。同年7月には日米包括経済協議が設置された。

しかし、ベンツェン氏が具現したドル安政策は、その後、後任のルービン財務長官によって180度転換された。

今回のドル高は「米国経済の相対的強さがけん引してきたもので、意図的に演出されたものではない」(ファンド・マネージャー)との受け止め方が、足元の市場では多数派だ。そういう見方に立てば「米国がドル高/円安を強くけん制しなければならない状況ではない」(同)との分析に説得力があるように見える。

ただ、ルー米財務長官の発言のトーンが変化したことに対し、一部の海外勢が注目しているのも事実で、米国が必要に応じドル高容認姿勢を微調整するとの見通しも一部の市場関係者から出ている。

(森佳子 編集:田巻一彦)

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