ニュース速報

アングル:欧州議会の反EU派、勢力結集は困難か

2019年05月29日(水)09時17分

[ブリュッセル 27日 ロイター] - 欧州連合(EU)の欧州議会選挙でナショナリズムを掲げる反EU派は改選前よりも議席数を伸ばし、一定の存在感を示した。ただ、難民問題やロシアとの関係を巡る政党間の溝は深い。共通の目標の下で結集し、他の会派からの参集も図って親EU派の政策に対抗するのは容易ではない。

暫定集計によると、反EU勢力は751議席中170議席余りを獲得。全体に占める比率は改選前の20%から23%に上昇したが、極右勢力は一部の予想ほどは議席数が増えず、親EU派が最大勢力を維持した。

一方、反EU勢力の中心的存在となっているイタリアの極右政党「同盟」を率いるサルビーニ副首相は27日、150人の議員グループの立ち上げを目指すと表明。ルペン党首率いる「国民連合(RN)」やナイジェル・ファラージ氏の英「ブレグジット党」、ハンガリーのオルバン首相などとこの件について協議したと明らかにした。

反EU勢力3会派のうち、英独立党(UKIP)とイタリアの反体制派「五つ星運動」などから成る会派「自由と直接民主主義の欧州(EFDD)」は、議席数が会派結成に必要な7議席に達せず消滅する見込みで、同会派からサルビーニ氏のグループに乗り換える動きが起きるかもしれない。

またポーランドでは現在、穏健な反EU会派「欧州保守改革連盟(ECR)」と手を組んでいる与党「法と正義(PiS)」が「同盟」との連携を協議する用意があると明らかにしており、こうした動きがサルビーニ氏の追い風になるかもしれない。

欧州議会は中道派とリベラル派が引き続き優勢で、反EU派は議席数が法案阻止には不十分に見えるが、一部の問題では右派の連携によって見かけ以上の影響力を発揮するかもしれない。

コーポレート・ヨーロッパ・オブザバトリーで調査を担当するケネス・ハー氏は「極右勢力の立場が強くなることで、中道右派の欧州人民党(EPP)がさらに右寄りに引きずり込まれるリスクがある」と述べた。

一方で、ハンガリーで52%の票を集めて13議席を手に入れたオルバン氏はEPPを離脱する公算が最も大きい。ユーラシア・グループのムジタバ・ラーマン氏は「オルバン氏がサルビーニ氏や彼のグループと手を組むと決断すれば、親EU派に対する重大なメッセージになる」と指摘した。

イタリアではベルルスコーニ元首相の「フォルツァ・イタリア」が8議席を獲得した。ベルルスコーニ氏もEPPに対して政策を右派寄りに修正するよう繰り返し求めている。

スペインでも新しい極右「ボックス(VOX)」がサルビーニ氏のグループと一部の問題で連携しそうだ。

しかしナショナリズムを掲げる勢力は政策で食い違いが大きく、これまでの立法作業で親EU派に対する十分な抵抗勢力になり得てこなかった。東欧の議員は以前から、EU各国で難民受け入れを分担すべきだとのイタリアの訴えに反対している。

ポーランドの法と正義は、サルビーニ氏やルペン氏がロシア寄りだと懸念している。

経済政策を巡っても反EU派内では見解の相違が大きく、サルビーニ氏は柔軟な財政ルールを主張し、オーストリアの極右「自由党(FPO)」から冷ややかな反応を受けている。

また、今回の欧州議会選で反EU派の議席増を支えた立役者の一人は29議席を得た英ブレグジット党だが、英国のEU離脱のさらなる延期が認められず10月31日に実際に英国が離脱したとたん、この議席は失われる。

(Francesco Guarascio記者)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税の影響を懸念、ハードデータなお堅調も=シカゴ連

ビジネス

マネタリーベース、3月は前年比3.1%減 7カ月連

ビジネス

EU、VWなど十数社に計4.95億ドルの罰金 車両

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中