コラム

「麻生vs鳩山」報道の勘違い

2009年08月17日(月)17時18分

 8月30日の総選挙で民主党が勝てば、衆院議員の任期が満了する4年後まで「鳩山首相」が政権を担い続けるべきだと、民主党の岡田克也幹事長が主張している。選挙で鳩山由紀夫代表が国民の信任を得るとすれば、そうするのが適切というわけだ。

 この主張は理解できないでもない。何しろ日本では、この4年間で4人もの首相が入れ替わってきた。しかし、(ここでは詳しく論じないが)日本の国政のことを考えると、民主党には鳩山に代わるリーダーを見つけてほしいと私は思っている。

 いずれにせよ、途中で鳩山が首相の座を降りても問題はない。なぜか。私に言わせれば今回の選挙で問われているのは、自民党と民主党の両党首の個人的資質ではないからだ。

 それに、選挙後に民主党が政権を握り、改革に成功すれば、首相の影は今より薄くなるはずだ。菅直人代表代行など民主党幹部たちは、首相個人の権力ではなく、内閣の機能を強化する重要性を強調してきた。

 実際には、投票日まで残り2週間を切り、「麻生太郎首相vs鳩山由紀夫代表」という図式の報道がますます増えるに違いない。

 日本のメディアがそう描きたくなるのは、この2人の家系のせいでもある。麻生と鳩山の祖父はともに日本政界の実力者で、保守政治の主導権をめぐりかつて激しくぶつかり合ったことがある。

■総選挙の主役は党首でなく政党

 しかし今回の選挙の興味深い点は、2人の祖父の時代と共通点がほとんどないことだ。1954年に鳩山の祖父・鳩山一郎が麻生の祖父・吉田茂を首相の座から引きずり降ろし、翌年の自民党結党に道を開いたときとはまるで事情が違う。

 この半世紀余りの間に、日本の政治は大きく変わった。吉田と鳩山の闘争は主に密室で戦われて、そこでは岸信介のような政治家が暗躍した。

 では、2009年の日本はどうか。(立ち位置がはっきりしない面はあるが)おおよそ中道左派の政党と中道右派の政党が衆人監視の場で議論し、マニフェストを発表し、党首や幹部が遊説で全国を駆け回っている。

 日本の有権者も8月30日、党首の性格より、こうした政党の公約や主張を基準に投票するつもりでいるようだ。もし個人の性格が有権者の判断に関係してくるとしても、それは個々の選挙区で出馬している候補者の性格であって、党首の性格ではないだろう。

 いま吉田茂の孫と鳩山一郎の孫が日本の2大政党の党首として次期首相の座を争っているのは事実だが、日本の政界で多くの世襲政治家が重要な地位を占めていることを考えれば、単なる偶然にすぎないと見なしていい。

 政治を論じるとき、メディアはしばしば「個人」を強調しすぎる。麻生を自民党政権崩壊の「戦犯」と決め付ける報道は多いが、実際のところ麻生は「まずい時期にトップの座に就いていただけ」という側面が大きい。

 今回の選挙の主役は、間違いなく政党だ。国民の信頼を失った自民党。国民の信頼を得るのに苦労している民主党。この2つの政党の対決のドラマこそが、8月30日の最大の焦点だ。

[日本時間2009年08月17日(月)07時39分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ビジネス

独総合PMI、11月は2月以来の低水準 サービスが
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story