コラム

なに考えてる? CIA元諜報員が分析したイーロン・マスクの深層心理

2022年12月21日(水)17時45分

優秀だが傲慢で暴走もする

マスクのさまざまな事業や構想は、2000年代に毎年そうだったように、2023年も形作られるだろう。なかでも注目は次の3つだ。

まず、テスラは電動トラック「セミ」の量産を本格的に開始し、2024年中に5万台を生産する。総重量約15トンを超える18輪の大型セミトラックで、航続距離は約800キロ、年間6万~20万ドルのガソリン代を節約でき、二酸化炭素排出量はゼロだ。

未来的な外観の電動ピックアップトラック「サイバートラック」の量産も始まる予定で、2023年に5万台、2025年までに10万台を生産する。

次に、スターシップは2023年の早い時期に、軌道への試験飛行に挑む。世界初の完全再利用可能な宇宙船で、軌道までの積載量は最大100トン。おそらく2025年までに月へ、2020年代の終わりまでに火星へ宇宙飛行士を運ぶ。

飛行1回当たりのコストは他のロケットより2桁か3桁少なく、輸送能力は10倍以上だ。火星の植民地化が現実味を帯びてきた。

最後に、ツイッターの買収は、2023年に言論の自由と個人の権利に関する世界の議論を再び形成するだろう。

マスクがツイッターを手に入れたことは、全体主義の中国から言論の自由を擁護するアメリカまで、世界中の政治的衝突と言論の自由の問題に影響を及ぼしている。

どの言論を保護するべきかについて、国が介入しない限り、マスクは世界で最も政治的影響力のあるソーシャルメディア(アクティブユーザーは2億5000万人以上)の唯一のオーナーとして、自らルールを決めるだろう。既にドナルド・トランプ前米大統領やネオナチのアカウントの復活を認めている。

優秀だが傲慢で、人間の力学に鈍感で、政治の複雑さに関しては未熟なリバタリアンで、「思い上がり」という言葉の意味を知らない。それがマスクなのかもしれない。

彼がツイッターに手を出したことは、身勝手で、愚かで、独り善がりのプライドが引き起こした歴史に残る悪いビジネス判断であり、民主主義と社会の調和を損なうかもしれない。

しかし、何年もの間、マスクの車は排ガスを出さずに走り続け、彼の太陽光発電の家は冷房も暖房も環境に優しく、彼の企業は繁栄して、彼のロケットは天空に舞い上がり、彼の事業は世界をよりよく変えてきた。

2023年もその点は同じはずだ。

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、和平合意後も軍隊と安全保障の「保証」必

ビジネス

欧州外為市場=ドル週間で4カ月ぶり大幅安へ、米利下

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理

ワールド

米ウ協議の和平案、合意の基礎も ウ軍撤退なければ戦
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story