コラム

「電球が全てを変えた...」モロッコ、W杯躍進が象徴する「経済の国」への変貌

2022年12月19日(月)13時12分
モロッコ代表

準決勝でフランスに敗れたが、ベスト4は歴史的快挙 DYLAN MARTINEZーREUTERS

<ワールドカップにおけるモロッコの躍進は、「経済の国」へと変貌した同国の姿を象徴している>

サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会におけるモロッコ代表の活躍は、実は電球と少女たちの読書についての物語だ。

今のモロッコが世界トップクラスのサッカーチームを持てるのは、過去20年間の進化の結果だ。この国はポスト植民地時代の伝統的で静的なイスラム社会から、太陽光発電やモダンな高速道路、着実に多様化する経済の国へと変貌した。世界の経済・社会変化・思想とつながる成長中の中産階級もいる。

「電球が全てを変えた。2年前にやっと電気が来たんだ」。モハメド6世が国王に即位して間もなく、私はモロッコの地方のある村人の話を聞いていた。独立から40年もたっているのに、どうして最近になって電気が通ったのかと尋ねると、彼はこう答えた。「モハメド6世だよ。父親の先王はずっとパリにいたが、モハメドは国の発展に全力で取り組んでいる」

確かにそうだ。1999年7月に即位したモハメド6世は貧困を減らし、経済開発と教育、女性の権利向上に力を入れると約束した。その結果、電気の普及率は20年間で70%から100%に、識字率は50%から75%に上昇。女性の識字率も約35%から65%に増加した。

伝統的社会での女性の教育は、長期的な社会の変化と経済発展を促す最大の原動力だ。結婚の最低年齢は18歳に引き上げられ、2004年には女性に「自己保護」と子供の養育権、離婚の権利が与えられた。

1人当たりGDPは00年の1335ドルから3497ドルへと2.6倍に増加(同時期の世界のGDP成長率とほぼ同等だが)。世界最大の太陽光発電施設を建設し、21年には電力の37%を再生可能エネルギーで賄えるようになった。高速道路網は00年以降4倍になり、現在は計画した高速鉄道網1800キロのうち300キロが完成。国土の3分の2をカバーしている。

当然のことながら、教育を受けた中産階級の台頭と同時に、社会的・政治的不満も高まっている。18~29歳の70%が移住を考えているのは、教育の向上と40%を超える都市若年層の失業率、彼らが満足できる仕事を十分に提供できない経済が招いた結果だ。国全体の貧困率は低下しているが、農村部ではまだ都市部の2倍の水準にある。

この問題は経済・社会発展が生み出す典型的な副産物だ。政治とは権力であり、権力者が自ら権力を放棄したり、他者と分け合うことはほとんどない。1789年のフランス革命や1917年のロシア革命の原動力となったのは、教育水準の向上と中産階級の不満の増大だった。モロッコでも、台頭する中産階級が将来への期待を高め、政治的発言権の拡大を要求し、政治体制に緊張をもたらしている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン

ビジネス

世界株式指標、来年半ばまでに約5%上昇へ=シティグ

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

再送-SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story