コラム

フランスを怒らせてでも...AUKUSで見えたバイデン「対中強硬」姿勢の本気度

2021年10月06日(水)17時55分
豪モリソン首相と仏マクロン大統領

豪モリソン首相と仏マクロン大統領(21年6月) PASCAL ROSSIGNOL-REUTERS

<米英豪のAUKUSは、中国に対抗する米バイデン政権の一貫した戦略の一環であり、その目的のためにはフランスの怒りは大きな問題ではない>

9月15日、米英豪3カ国は新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を発表し、オーストラリアへの原子力潜水艦の配備と、サイバーセキュリティーや人工知能(AI)分野での連携強化を打ち出した。米バイデン政権はインド太平洋地域で高まり続ける中国の影響力と攻撃性に対抗するため、首尾一貫した戦略を取っており、今回の動きもその一環だ。

これに伴い、フランスがオーストラリアから受注していた通常動力型潜水艦12隻、計660億ドル相当の契約が破棄された。ルドリアン仏外相は「背信行為」と猛反発し、駐米と駐豪の仏大使を召還。一方、中国外務省もAUKUS加盟国の「時代遅れの冷戦思考」を批判した。

もっとも、インド太平洋地域の24カ国は既に新たな冷戦が始まっていることを知っている。インドと中国の国境地域では昨年来、両軍が衝突して双方に死者が出ている。南シナ海では国際社会が公海と見なす海域やブルネイ、ベトナム、台湾、フィリピン、インドネシアなどの経済水域の領有権を中国海軍が虎視眈々と狙っている。

米英豪は過去75年にわたって軍事的同盟関係を結んできた。一方、インド太平洋地域の各国は今後、「中国と組むか、アメリカと組むか」という究極の選択を迫られる。

現時点では、フランスが激怒するのも無理もない。不意打ちを食らったマクロン大統領は、大統領選を来年4月に控えたタイミングで大口雇用を生む巨額の契約を失った。仏海軍は太平洋一帯で「航行の自由」作戦を定期的に実施しており、AUKUSはフランスの対中戦略を損なうものだ。

アメリカ側のミスも

アメリカ側のミスもあった。フランスの国益に反する情報を事前に伝えなかった点、AIなどの分野での新たな枠組みにフランスを加えなかった点、新たな軍事協定や貿易協定を提示してフランスの機嫌を取ろうとすらしなかった点......。

ただし率直に言えば、バイデン政権の包括的なインド太平洋戦略においてはフランスの怒りは大した問題ではない。バイデン大統領は今年1月の就任以来、中国に対抗する戦略を相次いで繰り出しており、AUKUSもその1つに位置付けられる。

■3月 クアッド(日米豪印戦略対話)の首脳会議を開催し、この4カ国による海洋安全保障などでの連携強化を確認。

■4月 諸外国に先駆けて日本の菅義偉首相と会談。翌月には韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とも会談して、アジア重視路線をアピール。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story