コラム

対日関係を改善したい文在寅、歩み寄る理由がない菅義偉

2021年06月23日(水)20時15分
G7サミット、菅義偉首相と文在寅大統領

G7サミットの記念撮影に臨んだ菅(2列目左端)と文(前列右端、6月12日) YONHAP NEWS/AFLO

<日本側からすれば、韓国政府が慰安婦問題と元徴用工問題を解決する行動を取らない限り、日韓関係の進展はあり得ない。それに、そもそも日韓では戦略上の優先事項が異なる>

先日イギリスで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)で日本の菅義偉首相と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の首脳会談が見送られた背景には、最近再び日韓両国間で挑発と対立が続いていたという事情があった。

G7サミット前に、韓国側は日本を刺激するような行動を少なくとも2つ取った。

1つは、東京五輪聖火リレーの地図に、韓国が領有権を主張する竹島(韓国名「独島」)が日本領として描かれていることに抗議したこと。もう1つは、その竹島の周辺で定例の軍事訓練を計画したことだ(その後、実際に訓練を実施)。

韓国政府が慰安婦問題と元徴用工問題を解決するための行動を取らない限り、日韓関係の進展はあり得ないと、菅は冷たく言い放った。

一方、韓国側にしてみれば、歴史問題をめぐる日本の謝罪は不承不承で、最小限にとどまり、不誠実に見えている。竹島に対する日本の姿勢は、日本が帝国主義的な発想を捨てていないことの表れだという。

加えて、文が東京五輪開会式に出席する意向を示すなど、韓国側の歩み寄りを日本が黙殺したという不満もある。

日韓両国の選挙が障害に?

しかし、文は日本との関係を改善したい理由がある。北朝鮮との平和路線が成果を生み出せずにいるまま、北朝鮮は核開発を続けている。

ジョー・バイデン米大統領は北朝鮮に対する厳格な抑止政策を掲げているが、これは文の融和路線と相いれない。

韓国国内での文の支持率も大幅に下落している。大統領任期満了まで1年を切った文は、対日外交で成果を上げ、5年間にわたる外交政策の停滞の埋め合わせをしたいはずだ。

それに対して、日韓両国の選挙日程を意識している菅は、差し当たり韓国との関係改善を推し進めたいと考える理由がない。

日本政府はこれまで、2015年の「慰安婦合意」のように、韓国大統領の任期の終わりに合意を結んだものの、新しい大統領によって合意を覆される経験をたびたびしてきた。

この秋には、日本の衆院選も控えている。日本の世論が韓国に対して極めて否定的であることを考えると、菅が韓国に対して冷淡な態度を取ることは日本の有権者から好意的に受け止められる可能性が高い。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story