コラム

トランプお墨付きの「Qアノン」が笑い事では済まされない理由

2020年09月17日(木)18時30分

QアノンのTシャツを着たトランプ支持者 ELIJAH NOUVELAGE-REUTERS

<小児性愛者や人食い人種、陰の政府、民主党の重鎮らは国民を取り込もうと画策し、主流メディアがその凶悪な計画を全て隠している──こうした世界を救えるのはドナルド・トランプ大統領ただ1人だとQアノンは主張>

QAnon(Qアノン)と呼ばれる狂気じみた集団が拡散している話を初めて聞いたとき、私は思わず声を上げて笑ってしまった。2016年、新生の狂気集団Qアノンはこんな主張を展開していた。当時、米大統領選を戦っていた民主党のヒラリー・クリントン候補と同党の幹部たちが、ワシントンにあるピザ屋の地下で小児性愛者向けの売春宿を運営している、と。

初めは笑い飛ばしていたのだが、2016年12月にQアノンの信奉者が子供を救おうとピザ屋に押し入り発砲した。幸いけが人は出なかったが、この事件でQアノンが笑い事では済まされなくなった。

Qアノンによる「運動」の発端は、ソーシャルメディア上に拡散される匿名の投稿だった。いわく、小児性愛者や人食い人種、「ディープステート(国家内国家)」と呼ばれる陰の政府、民主党の重鎮たち、ハリウッド俳優や著名なユダヤ人たちが米国民を取り込もうと画策し、子供の人身売買をする一方で、主流メディアがそれらを全て隠している、というもの。Qアノンは、この凶悪な計画から世界を救えるのはドナルド・トランプ大統領ただ1人だと主張する。

実は、Qアノンなど聞いたことがないという国民は75%にも上るのだが、トランプ政権下で彼らの見方は広く拡散し、共和党支持者の多くがQアノンとは何かを知らずに彼らの主張の多くを受け入れている。

例えば、アメリカ人の25%が新型コロナウイルスの世界的大流行は「権力者」たちによって仕組まれたと信じている。「ディープステート」がトランプを打倒しようとしていると信じる共和党支持者は50%に上り、11月の議会選挙に出馬しているか出馬を検討した共和党候補者のうち少なくとも77人はQアノンと関係している。

Qアノンは今や、トランプのお墨付きまで得ている。今年8月11日に、ジョージア州で11月に行われる下院選の共和党予備選でQアノン信奉者の実業家マージョリー・グリーンが勝利すると、トランプは「おめでとう、未来の共和党のスター」とツイッターで祝辞を送った。

悲しいことだが、Qアノンのルーツは建国時から米政治に影響を与えてきたある社会の潮流にある。アメリカは「理性」が頂点にあった啓蒙時代にエリート層によって建国されたが、この国の民主主義と「普通の人々」は理性が支配する社会秩序を打ち砕いた。高度な知識や理性は「反民主主義的」と同義となり、事有るごとに、エリート層や外国人、奴隷といった「他者」は「普通の白人」を脅かす「敵」であるとされてきた。国外や非白人の手に仕事が渡り、この国で白人が初めて多数派でなくなるのを前に、そんな時代に付いていけない白人のアメリカ人たちが再び揺さぶられている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

長期金利が2%に上昇、19年半ぶり高水準 国債先物

ビジネス

日銀が利上げ決定、政策金利は30年ぶり高水準に 賃

ビジネス

フェデックス、MD-11運航停止で最大1.75億ド

ビジネス

利上げで経済界に一定の影響考えられる、注視したい=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story