コラム

アメリカをめちゃくちゃにしたトランプ、それでも支持する労働者たちの「思い込み」

2019年09月25日(水)17時30分

サウスカロライナ州で開かれた集会でトランプの旗を振る支持者 RANDALL HILL-REUTERS

<人口動態や経済の現状を見れば敗北は確実だが選挙結果を左右するのは有権者の認知のひずみだ>

アメリカの民主主義はいま血を流している。「トランプ大統領がアメリカを救う」といまだに信じている人たちもいるが、「アメリカをめちゃくちゃにした」というのが大方の見方だ。現実的に考えれば2020年の大統領選でトランプが再選されることはあり得ない──。

だが、いかんせんその可能性は十分にある。

この危機のさなかにあっても、有権者は自分の暮らし向きと自分が属する集団への忠誠心から候補者を選ぶだろう。候補者選びでは、理性的な判断は常に後回しになる。だからこそ2016年の大統領選ではトランプが勝った。加えて2016年にはロシアの情報機関の工作がトランプの勝利を助けたが、2020年にもロシアはトランプに肩入れするだろう。

ここ十数年、アメリカの有権者は社会的な階層や学歴によって共和党支持か民主党支持かに色分けされるようになった。主に白人の比較的学歴の低い層が共和党とトランプを支持し、より高学歴の裕福な層が民主党支持に回った。

ブルーカラーの有権者はこの2年間に暮らし向きが良くなったと思い込んでいる。「労働者の味方」を標榜するトランプと共和党が政権を握ったおかげだ、というのだ(ちなみに「労働者」という言葉は「低学歴の白人」を指す隠語となった感もある)。逆に、高学歴の富裕層は経済状況が改善されていないと思い込んでいる。

実際はどうか。データを見る限り、トランプの経済政策は人種を問わずブルーカラーに打撃を与え、「1%」の富裕層に恩恵を与えたことが分かる。

公正で民主的な選挙なら

事実はどうあれ、トランプはグローバル化の進展や価値観の多様化に不安を抱く貧しい白人の味方を自任している。

だからと言って選挙で勝てるとは限らない。反トランプ派(その多くは非白人)は数ではトランプ派より優勢だ。その証拠に2016年の大統領選ではヒラリー・クリントンが得票数でトランプを300万票近く上回った。

アメリカでは2044年までに白人が少数派に転じる。トランプの白人労働者中心、白人至上主義的な立ち位置では劣勢に追い込まれかねないのだ。

ただアメリカの選挙制度では、白人が多く住む農業州の比重が大きい。人口が最も少ないワイオミング州の1票の重みは人口最多のカリフォルニア州の約3.7倍だ。前回トランプが得票数でクリントンに負けながら勝利を収めたのはそのためだ。だがそれを考慮しても、2020年の大統領選では人口動態の推移で民主党候補が有利になるだろう。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story