コラム

日韓の国力は、互いを利してこそ強まる

2019年02月06日(水)18時30分

韓国ソウルの日本大使館前には元慰安婦への謝罪と賠償を求める「平和の少女像」が Kim Kyung Hoon-REUTERS

<東アジアで台頭する中国の属国にならないためには、「過去の亡霊」から脱却すべきだ>

対馬海峡の波高し。日韓関係はこのところ荒れ模様だ。両国の人々の、それぞれの国への思い入れのせいだろう。情や恐怖心、自尊心は、ともすれば人に分別を失わせる。

あからさまに言ってよければ、日韓両国のナショナリストたちをとがめることもできる。彼らは決まって硬直化を強さと取り違え、プライドと国益を混同する。だが「おごり高ぶる気持ちが先にあってこそ倒れ滅びる」という教えは、神道にも仏教にもキリスト教にもあるのではないか。

中国が台頭し、自信喪失のアメリカはアジアの同盟諸国を困惑させ、東アジアの勢力均衡に変化が生じている。そんな時期に狭隘なナショナリズムで真の国益が損なわれるような事態を許す余裕は、日本にも韓国にもない。なのに今の現実はそうなっている。

もちろん、未来は変えられる。日本と韓国の指導者たちは両国間の緊張緩和に取り組み、昔の傷痕と現在の嫌悪感から脱することができる。それぞれの国力がそこに懸かっている。

緊張関係が増す傍ら、21世紀に入ってから3つの国際的な力関係が働いてきた。まずはナショナリズムの復興。次が国際関係にも儒教的な観念と行動様式を持ち込む中国と、理論上は対等な国民国家同士の関係というウェストファリア体制にこだわるアメリカの対峙。そして最後に、アジアにおける新たな国際秩序の出現(これはナショナリズムと中国の台頭、そしてアメリカの無関心に起因する)だ。

今の日本と韓国は、1945年以来最も互いを必要としているはずだ。しかし国内外で極端なナショナリズムが台頭しているが故に、日韓両国間の摩擦はこれまで以上に増大している。数十年前から加速するグローバル化によって各国の文化や伝統、独立性が圧迫されてきたことへの反動として、ナショナリズムが高まったせいだ。

グローバル化の影響により、見えないところで日々の暮らしに関する決定が下され、伝統的な価値観がじわじわと損なわれていく。すると必ずや国のアイデンティティーを改めて主張する動きが生じる。それで現実となったのがイギリスのEU離脱やフランスの黄色いベスト運動であり、ハンガリーのオルバン政権、イスラム聖戦勢力、アメリカのドナルド・トランプ大統領の出現なのだ。

植民地時代の日本に対して韓国人が遺恨を抱き、片や日本人はもう何世代も前の罪の責任を問われることに倦(う)み疲れている、ということはよく知られている。多くの日本人は過去の事実に(おおむね)異論を唱えないが、犠牲者側にあると思われる自己憐憫の文化にはうんざりしている。一方には過去はそのまま今につながっていると思う人がいて、一方には慰安婦という亡霊を慰める時はとっくの昔に過ぎたと感じる人がいる。

遠い昔の悪事、例えば女性を性の奴隷としたことに関する和解のささやかな意思表示や国旗侮辱問題をめぐって、なぜ日本を、なぜ韓国を、孤立させたり弱らせたりするのか、と問われるかもしれない。現在と未来を良くするための努力をせず、なぜ過去の報復をするのか。もう75年も名誉と称賛に値する関係を続けてきたのだから、両国とも過去の罪は水に流せばいい。そして「悪かった」と素直に認めればいい。

強さなきプライドは虚栄心

どちらの国のナショナリストも、国力を形成する要素を見直したほうがいい。成功する指導者や真の愛国者は、他者のプライドを尊重すべき時を知り、傷痕はもはや脅威でも侮辱でもないと納得すべき時を知っている。

真のナショナリストの目標は国力の増大であるべきだ。強さを伴わないプライドは虚栄心でしかない。自国の目的のために他国の力を強めることは、自国の強さを増すことに等しい。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米上院、ミラン氏をFRB理事に承認 CEA委員長職

ワールド

豪経済見通し、現時点でバランス取れている=中銀総裁

ワールド

原油先物横ばい、前日の上昇維持 ロシア製油所攻撃受

ワールド

クックFRB理事の解任認めず、米控訴裁が地裁判断支
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story