日韓の国力は、互いを利してこそ強まる
韓国ソウルの日本大使館前には元慰安婦への謝罪と賠償を求める「平和の少女像」が Kim Kyung Hoon-REUTERS
<東アジアで台頭する中国の属国にならないためには、「過去の亡霊」から脱却すべきだ>
対馬海峡の波高し。日韓関係はこのところ荒れ模様だ。両国の人々の、それぞれの国への思い入れのせいだろう。情や恐怖心、自尊心は、ともすれば人に分別を失わせる。
あからさまに言ってよければ、日韓両国のナショナリストたちをとがめることもできる。彼らは決まって硬直化を強さと取り違え、プライドと国益を混同する。だが「おごり高ぶる気持ちが先にあってこそ倒れ滅びる」という教えは、神道にも仏教にもキリスト教にもあるのではないか。
中国が台頭し、自信喪失のアメリカはアジアの同盟諸国を困惑させ、東アジアの勢力均衡に変化が生じている。そんな時期に狭隘なナショナリズムで真の国益が損なわれるような事態を許す余裕は、日本にも韓国にもない。なのに今の現実はそうなっている。
もちろん、未来は変えられる。日本と韓国の指導者たちは両国間の緊張緩和に取り組み、昔の傷痕と現在の嫌悪感から脱することができる。それぞれの国力がそこに懸かっている。
緊張関係が増す傍ら、21世紀に入ってから3つの国際的な力関係が働いてきた。まずはナショナリズムの復興。次が国際関係にも儒教的な観念と行動様式を持ち込む中国と、理論上は対等な国民国家同士の関係というウェストファリア体制にこだわるアメリカの対峙。そして最後に、アジアにおける新たな国際秩序の出現(これはナショナリズムと中国の台頭、そしてアメリカの無関心に起因する)だ。
今の日本と韓国は、1945年以来最も互いを必要としているはずだ。しかし国内外で極端なナショナリズムが台頭しているが故に、日韓両国間の摩擦はこれまで以上に増大している。数十年前から加速するグローバル化によって各国の文化や伝統、独立性が圧迫されてきたことへの反動として、ナショナリズムが高まったせいだ。
グローバル化の影響により、見えないところで日々の暮らしに関する決定が下され、伝統的な価値観がじわじわと損なわれていく。すると必ずや国のアイデンティティーを改めて主張する動きが生じる。それで現実となったのがイギリスのEU離脱やフランスの黄色いベスト運動であり、ハンガリーのオルバン政権、イスラム聖戦勢力、アメリカのドナルド・トランプ大統領の出現なのだ。
植民地時代の日本に対して韓国人が遺恨を抱き、片や日本人はもう何世代も前の罪の責任を問われることに倦(う)み疲れている、ということはよく知られている。多くの日本人は過去の事実に(おおむね)異論を唱えないが、犠牲者側にあると思われる自己憐憫の文化にはうんざりしている。一方には過去はそのまま今につながっていると思う人がいて、一方には慰安婦という亡霊を慰める時はとっくの昔に過ぎたと感じる人がいる。
遠い昔の悪事、例えば女性を性の奴隷としたことに関する和解のささやかな意思表示や国旗侮辱問題をめぐって、なぜ日本を、なぜ韓国を、孤立させたり弱らせたりするのか、と問われるかもしれない。現在と未来を良くするための努力をせず、なぜ過去の報復をするのか。もう75年も名誉と称賛に値する関係を続けてきたのだから、両国とも過去の罪は水に流せばいい。そして「悪かった」と素直に認めればいい。
強さなきプライドは虚栄心
どちらの国のナショナリストも、国力を形成する要素を見直したほうがいい。成功する指導者や真の愛国者は、他者のプライドを尊重すべき時を知り、傷痕はもはや脅威でも侮辱でもないと納得すべき時を知っている。
真のナショナリストの目標は国力の増大であるべきだ。強さを伴わないプライドは虚栄心でしかない。自国の目的のために他国の力を強めることは、自国の強さを増すことに等しい。
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