コラム

日本で車椅子利用者バッシングや悪質クレーマー呼ばわりがなくならない理由

2024年03月27日(水)14時24分

現在の社会は健常者を基準につくられている。そのせいで障害者に負担をかけているので、社会の様々な場所にある「障害(バリア)」を取り除く「バリアフリー」を行わなければならない。これが「社会モデル」の考え方となる。

障害の「社会モデル」への無理解

障害の「社会モデル」の考え方に基づけば、事業者にバリアフリーを要求する障害者を、悪質なクレーマーと同一視してはいけないことがわかる。たとえその当事者の性格が好ましいものではないとしても、段差のような、障害者にとっての障害を設けた責任は事業者の側にあるのは事実であり、事業者はその解消に取り組む必要がある。もちろん文句を言ったとして、直ちに解消できるような障害ばかりではないのは事実だ。しかし少なくとも、中嶋氏がされたような門前払いが許されることにはならない。たとえば車椅子対応を可能にするためのスタッフ研修やマニュアルづくり、あるいはポータブルスロープの導入などは検討されてよいはずだ。

問題なのは、内閣府の『障害者白書』をはじめとして、日本のバリアフリー政策が障害の「社会モデル」の採用のもとに進められているにもかかわらず、社会における一般的な認識では、いまだ障害の「個人モデル」が中心になっていることだろう。障害者の「個人モデル」から「社会モデル」への転換は、障害の問題についての大きなパラダイムシフトだ。政府の担当者や当事者だけではなく、事業者やその他の健常者も含めてこれが共有されていなければ、様々な軋轢を起こしかねない。国はいっそうの情報発信につとめるとともに、頻発する障害者バッシングへの対応も検討する必要があるだろう。


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プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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