コラム

どんどん不自由になる日本の表現の自由

2021年06月14日(月)15時26分

東京での「表現の不自由展」への妨害

東京の「表現の不自由展」実行委員会によれば、開催を発表した直後から嫌がらせメール・電話が相次いだ。6日からは右翼団体・レイシスト団体による会場への直接的な街宣活動も始まり、神楽坂に怒号が轟いた。同じ場所では子供たちのバレエのレッスンも行われており、影響を懸念したオーナーは、実行委に会場を貸せないと通告した。かくして、実行委は新たな会場を探さなければならなくなった。

記者会見によれば、展覧会のチケットは既に500枚以上売れており、実行委員会は開催そのものを中止する予定はない。会場・日程を調整し、予約者を優先するかたちで開催することを検討している。妨害行為については、刑事告訴などの法的手段を含め検討するという。

右翼による同様の妨害行為

これまでも、天皇制や日本軍の戦争犯罪、植民地責任に関係する企画展は、度々右翼の妨害に合っている。そのことによって開催が難しくなったり中止されたりしたケースも多い。

2012年、写真家の安世鴻による日本軍「慰安婦」の写真展が、東京と大阪のニコンサロンで開催される予定だった。しかし右翼団体による激しい妨害活動が行われたことによって、ニコンはニコンサロンの使用拒否を安世鴻に通告した。裁判所の仮処分によって東京の写真展は開催されたが、結局大阪ではできなかった。

今回も「表現の不自由展」企画者は、会場のオーナーに対して法的手段に訴える選択もあった。しかし、高層ビルの28階にあり警備や安全確保の手段も取りやすいニコンサロンと比べて、神楽坂の小さなギャラリーでこのまま強行するのは、確かに会場側にとって酷だ。他の利用者のことも考えると、会場使用の断念はやむを得ないだろう。

他にも直近では、今年3月に公開された「東アジア反日武装戦線」をテーマにした映画『狼をさがして』も、やはり右翼の妨害によって上映中止に追い込まれた映画館がある。

公共の会場で行うことの重要性

「あいちトリエンナーレ」を批判していた者は、「政治的に偏った」企画に対して補助金を出すことや公の会場を使わせることが問題だとしていた。しかし今回のような「表現」に対する不当な妨害行為があった場合、民間の施設では十分に表現を保護することができない。暴力的な抗議から主催者を守るためにも、こうした企画こそ公の施設を用いて行われるべきなのだ。

右翼は、警察の不作為もあって、「反日」表現を潰すことに手段を選ばなくなっている。大村知事のリコール運動で署名を偽造するという明らかに一線を越えた行動をしてしまったのも、「反日」を潰すためには自分たちは何をしてもいいのだという歪んだ意識がある。多様な文化や芸術を保護するために、公共の会場が開かれている意味はあるだろう。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story