コラム

中世の騎士道精神が蘇る日本のクリスマスイブ

2013年12月30日(月)09時00分

今週のコラムニスト:スティーブン・ウォルシュ

[12月24日号掲載]

 ヨーロッパではクリスマスはもはや宗教的行事ではなくなったが、今も家族の行事であることに変わりはない。クリスマス当日は家族全員が集まって豪華な食事を囲み、プレゼントを交換する。

 日本にはヨーロッパのような宗教的伝統が広く根付いていないので、クリスマスの祝い方が違っても不思議はない。とはいえ、クリスマスイブがカップル向けの行事と化し、おしゃれな若い男女が高級レストランで高価なギフトを交換する日になっているのには驚かされる。

 ヨーロッパと日本ではクリスマスの趣旨はかなり異なるが、少なくとも1つ共通点がある。かなりカネが掛かることだ。

 経済の先行きが明るくなりつつあるヨーロッパでは、クリスマスの出費が増加し始めている。宣伝に釣られて子供が欲しがる贈り物を買わなくてはならない家庭にとっては相当な重荷だ。

 ヨーロッパにおける今年のクリスマスの平均的な出費は、1家族6万5000円近くになる見込みだ。イギリスの平均的な家族は七面鳥のローストの夕食に2万円を投じ、平均12人の家族や友人にそれぞれ5000円のプレゼントを贈る。4人の子供がいる私は、日本に住んでいて本当に良かったと思う。ここでは子供へのクリスマスの贈り物は、それほど家計を圧迫しないからだ。

 もちろん、未婚のカップルは話が違う。クリスマスイブには特別なデートと贈り物で多大な財政的負担を課される。調査会社マクロミルによると昨年、日本の男女がクリスマスの予算とした金額は平均2万2671円にも上る。

 興味深いことに、別の調査では男性はパートナーへの贈り物に1万~3万円を費やしたが、女性は5000円未満。女性が望むプレゼントの1位は「アクセサリー」で、一方の男性は3万円を超えるiPadミニだった。願いをかなえてもらえなかった男性が大勢いただろう。

 カネの話はともかく、クリスマスイブにおしゃれをして品良く振る舞うカップルを見るのはとても心が温まる。クリスマスに酔って相手に言い寄る習慣があるイギリスとは大違いだ。日本では英国男性は紳士というイメージがあるが、平均して考えるとイブのデートで日本男性が見せる紳士ぶりには到底かなわない。

 友人の若い日本人男性たちの態度は、中世の騎士を思い起こさせる。愛する女性のために自らの命を喜んで投げ出す騎士のように、恋人を喜ばせるための努力と出費を惜しまない。

■将来パパになる男性への忠告

 騎士は死ぬまで愛する女性をたたえ、守り抜くことを誓い、お返しにもらったスカーフやリボンを誇らしげに甲冑に飾る。現代日本の騎士たちも心と財布を恋人にささげ、お返しにもらった写真をスマートフォンの待ち受け画面に飾る。 

 もともと騎士道は、女性の純潔を理想化した聖母マリアを崇拝するカトリックの信仰に基づいている。騎士と貴婦人の関係は、常にプラトニックなものだった。

 私は日本の騎士たちを尊敬するが、中世の手本に従うことは少子化を改善する助けにはならないだろう。現代のカップルには、騎士たちよりもっと実りある結末を迎えてほしい。日本の「伝統的な」クリスマスイブに費やされる努力と出費が、大家族で祝うヨーロッパ式クリスマスにつながる日が来るよう願っている。

 ただ、未来の父親候補たちに忠告しておこう。イギリスでは昔から、父親へのクリスマスプレゼントは貧相だ。安いアフターシェーブローション、マンガのキャラクター付きソックス、サンタクロース柄のセーターなど。iPadミニなんて夢のまた夢だ。

 でも、クリスマス映画がいつも訴えていることを思い出してほしい。自分が何かをもらうよりも、誰かに与えることにこそ意義があるのだ。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story