コラム
東京に住む外国人によるリレーコラムTOKYO EYE
ケネディ大使誕生がもたらした東京の新定義
今週のコラムニスト:マイケル・プロンコ
〔12月17日号掲載〕
キャロライン・ケネディが駐日米大使に任命された一番のメリットは何か。個人的には、アメリカにいる母が私の東京暮らしをやっと認めてくれそうなことだ。ケネディ家の人間が住むなら、私が東京に移り住んだことも許すというわけだ!
弟のジョン・F・ケネディJr.が私と同じ大学に進学したときもそうだった。実際に知っているわけではなかったが、同じキャンパスにいるというだけで不思議な気がした。ケネディ家が持つ神秘的な雰囲気のおかげで、大学の誰もが急に、少し戸惑いながらも誇らしい気分になった。
ケネディ大使を歓迎する理由はほかにもある。ケネディ家は典型的な「世界に貢献しようとする」精神、オバマ大統領がアメリカ政治に復活させた精神を体現している。ケネディ家のセレブ的な名声よりも、彼らが世のために尽くしてきた伝統のほうが重要だ。
オバマが象徴的な意味合いでケネディを駐日大使に選んだのは間違いない。ケネディが選ばれたのは日米関係と東アジア外交を改善するためだ。歴代の駐日大使に比べて外交経験不足という声もあるが、ケネディは弁護士資格を持ち、市民的自由に関する著書がある。アジアの国々が日本並みの経済先進国に成長するにつれ、自由と人権の保護がこれまでになく重要になっている。ケネディをアジアで最も重要な外交ポストに就かせたことは、民主主義と法の支配が平和の基本だというメッセージにほかならない。
さらにケネディは初の女性の駐日大使でもある。彼女の業績は女性の地位がまだ低いアジア社会を大いに刺激するはずだ。特に日本女性にはうってつけのロールモデルになるだろう。ケネディは特権階級で育ったとはいえ、女性の持つ可能性、女性が社会のトップレベルでどれだけ活躍できるかを示している。
来日したケネディはかつて広島を訪れた思い出や、東日本大震災の被災者との会話に心を動かされていた。どちらも日本を襲った最悪の惨事に対し、心からの慰めと理解を伝える訪問だった。ケネディ家の人々も悲劇を嫌というほど味わったが、それがかえってキャロラインを他人に寄り添える思いやりのある人間にしたようだ。
ケネディ家のリベラルな伝統は東京にぴったりだろう。東京人は一般に柔軟な世界観を持ち、文化的な違いを尊重するからだ。他人行儀ではあっても基本的に仲良く暮らし、社会規範の枠内でできる限りのことを成し遂げようとする。これはまさにケネディ家のリベラルな世界観にふさわしい。政治においても、日本のリベラル層が米政界のリベラル派との関係を強化するチャンスだ。
■JFKが遂げられなかった思い
そして何より、ケネディの着任は東京がこれからも外交の街であり続けるという証しと言える。平和的な共存へ向けたアジア外交の中核として、東京は期待されているのだ。
ケネディを日本に派遣したのは、亡き父親がやり残したことを娘が引き継ぐというオバマの明確なメッセージだ。故ジョン・F・ケネディは米大統領として初の訪日を望んでいた。63年の暗殺で絶たれた縁が、娘であるケネディの着任によって再び結ばれたわけだ。
ケネディ大使の誕生で私は60年に彼女の父親が行った有名な就任演説を思い出した。「同胞であるアメリカ国民よ、国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えよう」
ここからはあまり知られていないが、演説はさらにこう続いた。「同胞である世界市民よ、アメリカがあなたのために何をしてくれるかではなく、人類の自由のために共に何ができるかを考えよう」
それはケネディ大使を迎えた東京から世界へ向けたメッセージでもある。
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