コラム

ケネディ大使誕生がもたらした東京の新定義

2013年12月23日(月)10時43分

今週のコラムニスト:マイケル・プロンコ

〔12月17日号掲載〕

 キャロライン・ケネディが駐日米大使に任命された一番のメリットは何か。個人的には、アメリカにいる母が私の東京暮らしをやっと認めてくれそうなことだ。ケネディ家の人間が住むなら、私が東京に移り住んだことも許すというわけだ!

 弟のジョン・F・ケネディJr.が私と同じ大学に進学したときもそうだった。実際に知っているわけではなかったが、同じキャンパスにいるというだけで不思議な気がした。ケネディ家が持つ神秘的な雰囲気のおかげで、大学の誰もが急に、少し戸惑いながらも誇らしい気分になった。

 ケネディ大使を歓迎する理由はほかにもある。ケネディ家は典型的な「世界に貢献しようとする」精神、オバマ大統領がアメリカ政治に復活させた精神を体現している。ケネディ家のセレブ的な名声よりも、彼らが世のために尽くしてきた伝統のほうが重要だ。

 オバマが象徴的な意味合いでケネディを駐日大使に選んだのは間違いない。ケネディが選ばれたのは日米関係と東アジア外交を改善するためだ。歴代の駐日大使に比べて外交経験不足という声もあるが、ケネディは弁護士資格を持ち、市民的自由に関する著書がある。アジアの国々が日本並みの経済先進国に成長するにつれ、自由と人権の保護がこれまでになく重要になっている。ケネディをアジアで最も重要な外交ポストに就かせたことは、民主主義と法の支配が平和の基本だというメッセージにほかならない。

 さらにケネディは初の女性の駐日大使でもある。彼女の業績は女性の地位がまだ低いアジア社会を大いに刺激するはずだ。特に日本女性にはうってつけのロールモデルになるだろう。ケネディは特権階級で育ったとはいえ、女性の持つ可能性、女性が社会のトップレベルでどれだけ活躍できるかを示している。

 来日したケネディはかつて広島を訪れた思い出や、東日本大震災の被災者との会話に心を動かされていた。どちらも日本を襲った最悪の惨事に対し、心からの慰めと理解を伝える訪問だった。ケネディ家の人々も悲劇を嫌というほど味わったが、それがかえってキャロラインを他人に寄り添える思いやりのある人間にしたようだ。

 ケネディ家のリベラルな伝統は東京にぴったりだろう。東京人は一般に柔軟な世界観を持ち、文化的な違いを尊重するからだ。他人行儀ではあっても基本的に仲良く暮らし、社会規範の枠内でできる限りのことを成し遂げようとする。これはまさにケネディ家のリベラルな世界観にふさわしい。政治においても、日本のリベラル層が米政界のリベラル派との関係を強化するチャンスだ。

■JFKが遂げられなかった思い

 そして何より、ケネディの着任は東京がこれからも外交の街であり続けるという証しと言える。平和的な共存へ向けたアジア外交の中核として、東京は期待されているのだ。

 ケネディを日本に派遣したのは、亡き父親がやり残したことを娘が引き継ぐというオバマの明確なメッセージだ。故ジョン・F・ケネディは米大統領として初の訪日を望んでいた。63年の暗殺で絶たれた縁が、娘であるケネディの着任によって再び結ばれたわけだ。

 ケネディ大使の誕生で私は60年に彼女の父親が行った有名な就任演説を思い出した。「同胞であるアメリカ国民よ、国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えよう」

 ここからはあまり知られていないが、演説はさらにこう続いた。「同胞である世界市民よ、アメリカがあなたのために何をしてくれるかではなく、人類の自由のために共に何ができるかを考えよう」

 それはケネディ大使を迎えた東京から世界へ向けたメッセージでもある。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story