コラム

「お祭り騒ぎ」はテレビの速報も

2012年11月16日(金)20時49分

 11月6日夜のニューヨーク・タイムズスクウェア。「オバマが大統領選挙人274人を獲得」とテレビが速報した瞬間、地鳴りのような歓声が上がりました。270人が過半数ラインなので、要するに「当選確実」というわけです。車から身を乗り出して、「オバマ、オバマ」と熱狂する人たちもいました。ニューヨーク市民にはオバマファンが多いのです。

 当確が出たとき、時差の関係でハワイ州では、まだ投票が続いていました。

 投票締め切りは午後7時。東部の州で投票が締め切られても、中部や西部ではまだ投票中。それでも、投票が締め切られた東部の州に関しては、テレビ各局が、次々に「オバマ勝利」「ロムニー勝利」と速報していきます。中部や西部への配慮などないのですね。ネットワークテレビの本社は東部のニューヨークだからでしょうか。

 でも、この時点でどちらかの候補が圧倒的なリードを保ったら、中部や西部の有権者の投票行動に影響を与えてしまうのではないでしょうか。

 などと考えてしまうのは、私が長らく日本のテレビ報道に携わってきたからでしょうか。アメリカのテレビ局は、そんな配慮などせずに報道するのですね。

 アメリカは選挙がお祭り騒ぎと称せられますが、これはテレビの開票速報番組も同じです。

 NBCは、ロックフェラーセンタービルを開票速報ボードにしてしまいました。ビルの途中に「270」の数字があり、共和党の赤、民主党の青の柱が高くなっていき、どちらが270に到達するか、という形で開票状況を伝えました。

 CNNは、エンパイアステートビルを速報ボードにしたのですから、さらに先に行きます。ビルの先端の塔を赤と青のライトで照らして結果を知らせます。オバマが勝つと、ビルの上部全体が青くなり、「民主党勝利」を知らせました。

 こうした速報をするためには、各州で出口調査をする必要があります。でも、そのための費用は膨大。そこで、テレビ各局が共同組織を結成して調査を実施。結果を各局で共有する形をとりました。それでも、当確速報には差が出ましたから、各局が独自の分析を加味しているのですね。

 CBSもABCもFOXも、スタジオには男女のキャスター(アンカー)以外に政治コンサルタントや政治アナリストが並び、コメントしていきます。

 でも、どこかの国のテレビ番組のようにお笑いタレントが出てくることはありません。政治のプロだけで政治を語るのです。

 大統領選挙中、オバマ陣営もロムニー陣営も、大量のテレビコマーシャルを流しました。テレビ各局には選挙特需です。それだけ利益が上がっているのだから、大掛かりなお祭り騒ぎになってしまうのですね。

 選挙が始まると熱狂するのは、支持者ばかりではない。この点では日米の違いがありません。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story