コラム

副大統領選びはむずかしい

2012年08月23日(木)17時40分

 アメリカ大統領選挙で候補者になるためには、まずは民主党か共和党の党員たちに認めてもらい、党の候補になる必要があります。民主党なら、リベラルであればあるほど党内の支持が高くなりますが、本番の選挙では、リベラルすぎると敬遠されます。

 同じように共和党では、強硬な保守が支持されますが、本番では一般の有権者から嫌われます。

 これを避けるため、党の候補に決まったとたん、候補者は発言内容を軌道修正し、中道寄りになるケースが多いものです。民主党のクリントンは、大統領候補になると、保守的な発言が多くなりました。共和党のブッシュ(息子)は、正式な候補になると、「穏健な保守主義」を掲げました。実際には、「穏健」どころか、とんでもないタカ派の本性を隠していたのですが。

 では、今回の共和党のロムニー候補は、どうか。共和党の候補者選びの過程で、各候補とも極端な保守強硬路線を打ち出していたため、本選では中道路線に寄るのかと私は思っていたのですが・・・、結果は、極端に保守強硬派のポール・ライアン下院議員を副大統領候補に指名しました。

 「これはいわば極右のクーデターだ」

 こう指摘するのは、本誌日本版8月29日号の記事「ライアンを相棒にしたロムニーの大誤算」を書いた政治評論家のピーター・バイナートです。「健全な政党なら党と国のイデオロギー的傾向の溝を自覚し、候補に橋渡しの余地を与える」はずなのに、共和党はそうしなかったというのです。共和党は「健全な政党」ではないと言いたいのですね。

 「言い換えれば、ロムニーは保守派基盤の支持強化のため、ひどく評判の悪い意見の持ち主を副大統領候補に選んだわけだ」。

 とまあ、評価は散々です。さらに同誌の別の記事「ライアンは副大統領の器か」でも、ライアンに対する評価は最悪です。

 『ニューズウィーク』は民主党寄り。どうしてもそんな印象が強くなりますが、それを打ち消す特大の特集も同誌には掲載されました。それが『「無能」オバマに再選の資格なし』と題した本誌コラムニストのニーアル・ファーガソンが書いた特集記事でした。

 ファーガソンは、自分の立場をこう書いています。4年前に彼は「共和党候補ジョン・マケインの選対顧問だった」そうです。

 彼はオバマの4年間をコテンパンに批判し、特集記事をこう結んでいます。

 「4年前、私は負けを認めた。だがライアンの登場で希望を取り戻した今、11月には何としても勝ちたいと思っている」。

 共和党のライアンを叩いたり、希望だと述べたり。いろいろな意見を読めるのが本誌の良さですが、今号のオバマ叩きは、本誌アメリカ版編集部が、「民主党寄り」のイメージを払拭したいとの意図を持っているのが透けて見えます。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

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