コラム

危機を煽るだけでなく

2012年05月25日(金)12時37分

 政治家たちは、国家の危機を前にしても党利党略に走り、与野党一致して危機に対処しようという行動には出ない。国民は、痛みを伴う改革に反対する。年金の支給額引き下げにはそろって反対。国が危ないとなれば、自分の銀行預金が心配になる......。

 これがどこの国のことか、おわかりですね。もちろん日本のはずがありません。

 ギリシャのことです。日本の政治家も国民も、ギリシャほどひどいわけがありません......と、ここまで書いてくると、この文章自体がブラックジョークになります。なんだ、日本もギリシャも大差ないじゃないか、という気分になってきます。

 ギリシャは、国家の危機に直面しても、政党間の話し合いがまとまらず、再選挙となりました。日本の国会の様子を見ていると、ギリシャの政治家たちとイメージが重なります。

 ギリシャで反緊縮派が伸張したことで、ギリシャの破綻・ユーロ脱退が現実的なものになりつつあります。そうなれば、ユーロは崩壊の危機に直面する......と考える人が多いからでしょう。ユーロが暴落し、日米の株式市場も大きく値を下げました。

 では、ギリシャが破綻すると、どのように悪影響が広がるのでしょうか。本誌日本版5月30日号の『ギリシャ発「ドミノ倒し」の幻』は、心配されている「ドミノ倒し」を、次のように描きます。

「ギリシャが完全に債務不履行となり、あるいはユーロ圏を離脱した場合、その影響が連鎖的にイタリアやスペインからフランスへ、やがては財政の安定している北の国々へも及ぶのではないか」

「大手銀行は国有化され、株券はただの紙切れになる。高齢者は年金を奪われ、現金の欲しい各国政府は紙幣の増刷に走る。あちこちで通貨が切り下げられ、アメリカの金融機関は資金を引き揚げてさらに各国政府や機関がドミノのごとく倒れていく」

 念のために言っておきますが、この記事は、このようなドミノ倒しが現実に起きる可能性が高いと主張しているわけではありません。むしろ逆に、「本当に憂慮すべき問題は」「破綻は近いという強迫観念だ」と指摘しています。私たちは、「ドミノ倒し」という悲観的見通しに振り回されているという、至極まっとうな記事なのです。

 では、どうして悲観的な見通しばかりが伝えられるのか。「ドミノ倒し」理論がしっかり検証されないのも一因だと私は思うのです。

 たとえば、「影響が連鎖的にイタリアやスペインからフランスへ、やがては財政の安定している北の国々へも及ぶのではないか」という懸念が語られる場合、「連鎖的に」というのが、どのようなメカニズムで起きるのでしょうか。あまりに漠然としたムードやイメージで語られすぎてはいないでしょうか。このメカニズムを解き明かそうとすれば、かなり飛躍した論理が含まれていることがわかるはずです。

 悲観論を語るのではなく、悲観論が成立するかどうかの冷静な検証を。これがいまこそ大切なのだと思うのです。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

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