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コラム
池上彰Newsweek斜め読み
バチカンの何が問題なのか
イタリアのローマ市内に存在する独立国家バチカン市国。一般の人が入れるのはサンピエトロ大聖堂前の広場とバチカン美術館だけ。その先はスイスの衛兵が守っていることもあり、秘密のベールに包まれています。
実際に中に入ると、そこに住み働く人のためのスーパーマーケットや診療所もあり、ガソリンスタンドもあって、職住接近の暮らしがあるのですが。
中の様子がわからないと、人は憶測をたくましくするもの。さまざまな噂が広がり、都市伝説も生まれます。
ローマ法王庁をめぐる数々のスキャンダルは、さて事実なのか、噂話の類も多いのか。
そんなことを考えたのは、本誌日本版4月4日号の記事「バチカンに渦巻くマネロン疑惑」を読んだからです。「法王庁の奇妙な会計手法をめぐるマネーロンダリング(資金洗浄)疑惑」でローマ法王庁が「パニックに陥っている」というのです。
きっかけは、米大手銀行JPモルガン・チェースが、バチカンの国家財政管理を担う宗教事業協会(通称バチカン銀行)がミラノ支店に保有する口座を閉鎖することを決めたことでした。問題の口座は毎日、営業時間終了の時点で残高がゼロになっているという不思議な状態になっていたそうです。JPモルガン・チェースとしては、この「送金活動の疑問点について説明を求めた」が、バチカン側が「対応不可能」だったからとのこと。
毎日口座残高がゼロになるのでは、確かに「マネーロンダリング疑惑」が生まれるのでしょうが、なぜ何のためにそんなことをしていたのか。記事は「納得のいく説明は得られていない」と書きますが、これでは読者は欲求不満になります。せめて、何らかのヒントになるようなことが書けなかったのでしょうか。「根拠のない憶測は書けない」と言われてしまえばそれまでですが、未消化感が残ります。
ところが記事は、それを掘り下げるのではなく、別の話に飛びます。バチカン市国行政幹部だったカルロ・マリア・ビガノ大司教が昨年3月にローマ法王に送った公的な書簡で、もし自分が転任すれば、「各部門に巣くう汚職や権力乱用を一掃できると信じる人々が戸惑い、落胆するでしょう」と述べていたのに、大司教は「昨年10月、駐米ローマ法王庁大使としてワシントンへ飛ばされた」という話が続きます。
さて、マネーロンダリング疑惑と、この人事異動は、どう関係するのか。状況証拠としても根拠薄弱ですが、読者には、「何かおかしなことが起きている」という印象を与えることはできます。
記事は、米国務省が「マネーロンダリングに利用される懸念がある国のリストに初めてバチカンを加えた」ことを付け加えることで、「マネーロンダリング疑惑」を裏付ける話しにしています。でも、米国務省が、何を根拠に「加えた」のかは、説明がありません。
とても重要なテーマを取り上げていることはわかるのですが、読者としては、どうも納得いかずに読み終わる、そんな記事になっています。だからこそ「疑惑」なのかもしれませんが。
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