コラム

貴重な独占インタビューだが

2012年01月29日(日)00時31分

 去年、軍事政権から民政移管になったミャンマー。民政とは名ばかりで、どうせ軍事政権の看板の付け替えにすぎないだろうと思われていたのに、このところの民主化の動きには驚くばかり。大統領が民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏と会い、スー・チー氏が議会の補欠選挙に立候補することを認めたり、大量の政治犯を釈放したり、内戦が続いていた少数民族との停戦合意を結んだり、中国主導で進められていたダム建設を白紙に戻したり。

 テイン・セイン大統領の改革は果たして本物なのか。国際社会が注目する中、本誌日本版2月1日号は貴重な独占インタビューを掲載しています。

 インタビューした記者は、大統領に対して、「この国を変えようと思った動機は」と尋ねています。その答えは、「平和と安定、そして経済発展を実現したいという人々の希望が根底にあるからだ」というもの。

「これらを実現するためには、国内の政治パートナーと良好な関係を築くことが重要だ。だからわれわれはスー・チーと対話を始めた。私は彼女と会い、2人の間に理解が生まれた」

 ここで大統領は重要な発言をしています。スー・チー氏を「国内の政治パートナー」と呼んでいるのです。記者は、この発言に敏感に飛びつきました。「スー・チーが選挙で善戦したら閣僚に起用するか」と聞いているのです。過去の軍事政権はスー・チー氏を敵視してきました。たとえ選挙への立候補を認めても、「野党として認める」程度だろうと受け止めて当然ですが、記者は鋭く閣僚への起用の可能性を突いたのです。

 これに対する大統領の発言もまた、驚くべきものです。「現在の閣僚は全員が議会の承認に基づいて任命されている。彼女が議会の任命や承認を得たら、閣僚として受け入れることになる」と。

 なんとまあ、スー・チー氏が大臣になるかも知れない! 大変な発言を引き出しました。

 記者はまた、スー・チー氏にもインタビューしています。ここでも鋭い質問が。「将来、大統領になりたいか」と。

 これに対する彼女の返答は微妙です。

「そうは思わない。この国の大統領になりたいかどうか決断できる自由が欲しいとは思うが」

「大統領になりたいとは思わないが、なりたいと決断できる自由は欲しい」。日本の夕刊紙であれば、「スー・チー氏、大統領への野望隠さず」と書きたてるところでしょう。

 客観的に見て大変な特ダネでも、淡々と書いていく。記者の実力を見る気がします。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story