コラム

カタールへの襲来者

2011年06月10日(金)11時25分

 中東のニュース専門チャンネル「アルジャジーラ」は、相手がアメリカだろうが、中東の独裁国家だろうが、気にかけず大胆に報道の自由を貫いてきた・・・。

 チュニジアに端を発したジャスミン革命はアラブ諸国を席捲しました。日本ではフェイスブックなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)が大きな影響力を発揮したと報じられましたが、あの大群衆が、みんなフェイスブックを使っていたわけではありません。識字率の低い国もある中で、反政府集会に多数を動員できた理由のひとつは、アルジャジーラのアラビア語放送でした。

 アラブ諸国は、みんなアラビア語を話していますから(当たり前ですね)、アルジャジーラの放送を見ていれば、自国の反政府運動の様子もわかるのです。

 さすがアルジャジーラと思いたくなるでしょうが、アルジャジーラにも不文律のようなものはあります。社として公式に認めているわけではありませんが、私が見るところ、「イスラム教徒にとっての聖地メッカを守護する国王のいるサウジアラビアと、アルジャジーラ本社があるカタールについては、慎重な報道を心がけること」です。

 アルジャジーラを抱えるカタールは、放送内容をめぐって、アラブ各国からしばしば非難を受けてきましたが、カタールの首長は、動じません。放送内容にも口を挟むことはないようですが、そこは阿吽の呼吸というものでしょう。

 ところが、そのカタール国内では、「自由は厳しく統制されている。政治活動は世襲の君主制で、政党は1つもない」と、本誌日本版6月15日号は書いています。

 本誌がカタールを取り上げた記事のタイトルは、「酔っぱらいが攻めて来る!」。カタールが、2022年のサッカーワールドカップの開催国になったからです。

 記事のトーンは、次の文章に集約されます。

「カタールは保守的なイスラム教国。大酒を飲んだり公然と男女がいちゃついたりするのが当たり前、と思っている世界のサッカーファンを1カ月も受け入れることができるのか」

 カタール国民にもサッカーファンは多いですから、ワールドカップを開催できるのは、誇らしいことでしょう。でも、その結果、フーリガンが大挙して来たら・・・。彼らは、路上でもビールをラッパ飲みして騒ぐのが楽しみなのですから、カタール国内に強いインパクトを与えることは確かでしょう。

 それによって、カタールが開かれた国になるのか、それとも「これだから異教徒は度し難い」と軽蔑するのか。

 でも、開催は2022年。11年後ですよ。その頃、果たして中東はどうなっているのか。熱心なサッカーファン並みに気の早い記事のように読めてしまったのですが。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story