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コラム
池上彰Newsweek斜め読み
ブラジルの治安は回復するのか
南米のブラジルといえば、BRICsの1角として、経済発展が目覚しい国です。サッカーのワールドカップにオリンピック開催まで決まり、「21世紀はブラジルの世紀」と呼んでもいいほどです。
豊かな天然資源に恵まれ、巨大な海底油田の存在も次々に明らかに。農業大国でもあり、羨ましいことばかり。
しかし、羨むことのできない点もあります。それは「犯罪大国」でもあるということです。
今年1月、私はブラジルのサンパウロを取材しました。多くの日系人と会いましたが、地方で農業に従事する人たちが心配していたのが、強盗の襲撃でした。治安が悪いのは地方ばかりではありません。いや、むしろ都市部の治安悪化のほうが深刻です。サンパウロにしてもリオデジャネイロにしても、「ファベーラ」と呼ばれるスラム街がいくつも存在し、ここが治外法権状態なのです。
入り組んだ狭い道と積み重なるようにアパートが密集した地域は、警察もアンタッチャブル。警察も手を出せないギャング組織が牛耳っています。なにせ2009年には、リオデジャネイロで警察のヘリコプターが麻薬組織によって撃墜される事件が起きたくらいですから。
いくら経済が元気でも、これでは見通しが明るくない...と思っていたのですが、上に人を得れば、状況は大きく変わります。リオデジャネイロの治安が劇的に改善されつつあるようです。そんな明るいリポートは、本誌日本版6月1日号に掲載されています。
きっかけは、リオデジャネイロ州の保安長官にジョゼ・マリアノ・ベルトラメ氏が任命されたこと。リオデジャネイロの人口900万人のうちの2割が住むスラム街の浄化に乗り出したことです。軍の全面的な支援の下、治安部隊が、スラム街を、ひとつずつ制圧。ギャングを逮捕・追放すると、住民40人に警察官1人の割合で警察官が手厚く配置され、その後の治安確保に当たっています。
かつてもブラジルの警察は、スラム街に攻撃をかけ、成果を上げたら引き上げ、元の木阿弥を繰り返してきました。しかし、今度は、面で制圧する新しい手法で成果を上げているというのです。
かつてアメリカのニューヨーク市も、治安の悪さで知られましたが、ジュリアーニ市長による治安回復策によって、見違えるばかりになりました。トップに立つ者の資質によって、ここまで劇的な変化をもたらすことができるものなのですね。
「ブラジル・モデル」は、治安の悪化に悩む他の国にも参考になりそうです。これで、ワールドカップもオリンピックも、安心して見に行けるようになるといいのですが。
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