コラム

米中関係:良質な分析だが深読みすぎないか

2009年12月09日(水)10時00分

 アジアを歴訪して各地で共同声明を出したアメリカのオバマ大統領。東京での演説では、東京にいるのに中国向けの内容でした。それだけ日本より中国を重視しています。

 では、米中共同声明はどうだったのか。これを分析した記事が、本誌12月2日号の「米中共同声明の落とし穴」です。この記事は、「ニューズウィーク」オリジナルではなく、アメリカの外交専門誌「フォーリン・ポリシー」からの転載記事です。こういう記事も読めるのが、本誌のいいところです。

 この記事の筆者であるダニエル・ブルーメンソル氏は、オバマのアジア戦略に極めて批判的です。台湾とインドに関して、「オバマが中国の術中にはまっている」と強い調子で批判しています。

 このうち、インドの部分を読んでみましょう。氏は、インドが中国の覇権を阻むために毅然とした態度をとっていると評価しています。

「11月8日にチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が中国が領有権を主張するインド北東部のアルナチャルプラデシュ州を訪れた際、インドは中国の圧力に毅然としていた。
 インドは2つの意味で中国を牽制した。まず、国内問題に干渉するな。ダライ・ラマはインド国内を自由に移動できる。そして、アルナチャルプラデシュはインドの領土である。国境付近に中国は軍事的圧力をかけているが、インドは屈していない。インド洋でも、インド海軍は中国が勢力圏を築くことを許していない」

 氏は、中国の対インド戦略は、インドを南アジアに縛りつけ、大国として台頭させないことだと見ています。そのために中国としてはパキスタンを支援し、インドがパキスタン問題に力を入れざるをえないことが必要だと分析しています。

 中国は以前からパキスタンへの支援を続けています。インドを一層台頭させないためにも、インドを「インド・パキスタン問題」の枠組みで扱うことをアメリカに認めさせることが重要であり、米中共同声明で、中国はそれに成功した、という分析です。

 インドと中国の関係についての、氏の分析は読ませます。この点については高く評価できますが、しかし、アメリカは中国の術中にはまった。とまで言えるのでしょうか。

 というのも、アメリカはアフガニスタンでの戦争に多大な犠牲を払っている最中だからです。アフガニスタンのタリバン掃討に関しては、パキスタン政府の協力が必須です。アメリカとしては、パキスタン対策が大きな課題です。インドに敵対心を抱くパキスタンを必要以上に刺激しないためにも、パキスタンと友好関係にある中国に対して、「南アジアの平和に米中が協力していこう」と呼びかけるのは、当然の態度ではないでしょうか。

 その点で、この記事は、いささか深読みすぎるように思えます。むしろオバマの外交戦略のアラ探しという色彩を感じてしまいます。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 7
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 7
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 8
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story