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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
原発に代わる「未来のエネルギー」は再生可能エネルギーではない
民主党政権が脱原発のお手本にしたドイツでは、再生可能エネルギーが経済の大きな負担になっている。今年2月、ドイツ政府の諮問機関であるEFI(研究・イノベーション専門家委員会)は、再生可能エネルギー法(EEG)は電気料金を高くするだけで、気候変動対策にもイノベーションにも役立たないという報告書を発表した。
それによると、EEGによる再エネ支援額は2013年には236億ユーロ(約3兆3200億円)にのぼり、電気料金の約20%が再エネ発電事業者への支援に使われ、ドイツの世帯あたり電気料金は80%も上がった。これはFIT(固定価格買い取り制度)の助成金が原因だ。産業用の電気料金も、EU(ヨーロッパ連合)平均より19%も高く、製造業がドイツから逃げ出す「空洞化」が起こっている。
FITの目的は、再エネを普及させて規模の利益を出し、そのコストを下げて技術開発を促進しようというものだが、EFIはそれは逆効果になっているという。風力も太陽光も今の技術はコストが高く研究開発を進める必要があるが、FITではどんな技術にも助成金を出すので、リスクの大きい新技術を開発するより古い技術で発電するほうがもうかるのだ。
原子力に代わるエネルギー源は風力でも太陽光でもなく、石炭火力である。「太陽光で原発の*基分」という報道がよくあるが、太陽光は雨の日にはゼロになるので、そのバックアップは火力しかない。それがドイツで現実に行なわれた選択である。ドイツの石炭火力発電所はEEGの施行後に増え、2013年には石炭の消費量が1990年以降で最大になった。
世界的に、石炭火力がブームになっている。日本でも、電力大手が石炭火力発電所の新設に動き出した。関西電力と中部電力は2020年代前半に100万キロワット級の発電所を建設し、東北電力も凍結していた火力発電所計画を復活させる。東京電力も計260万キロワットの火力電源を確保する計画を打ち出している。
これは賢い選択である。石炭の埋蔵量は200年以上あり、供給業者も世界に分散していて石油のような地政学リスクはない。価格も5円/kWh以下とLNG(液化天然ガス)の半分ぐらいで、余って下がり続けている。電力会社にとって石炭火力は、厄介な政治的リスクの大きい原子力よりずっと経営合理的だ。
たった一つの問題は、それが汚いエネルギーだということだ。WHO(世界保健機関)は「全世界で大気汚染で約700万人が死んでいる」という報告を発表したが、その1割の原因が火力発電で、その半分以上が石炭火力である。全米の石炭火力発電所は、毎年44トンの水銀、73トンのクロム、45トンの砒素を排出している。
日本の石炭火力はクリーンだといわれるが、年間22トン以上の水銀が大気中に排出されている。そのうち1.3トンが石炭火力から出たものと考えられているが、これは2000人分の致死量である。水銀の経口毒性はプルトニウムの1.5倍で、水に溶けて体内に蓄積するので、少しずつでも吸入すると健康に影響が出る。石炭火力は原子力よりはるかに危険である。
OECD(経済協力開発機構)の統計でも、石炭火力の発電量あたりの死者は(主として採掘事故で)原子力の約70倍だ。さらに二酸化炭素(CO2)による気候変動のコストは、2100年までに1兆ドルを超えるともいわれる。CO2を削減する技術はあるが、それを装備すると石炭火力の建設費は原発より高くなってしまう。
しかしこのような環境リスクは技術的に削減でき、そのコストは今後100年に大きく低下するだろう。石炭を使い続けることは100年後の人類に環境悪化という重荷を背負わせるが、彼らはわれわれよりはるかに豊かになる。気候変動のリスクを金利で割り引いた現在価値は100億ドルのオーダーで、それほど大きな問題ではない。不毛な原発論争はもうやめ、現実的な数字でエネルギー政策を考えてはどうだろうか。
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