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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
出口戦略のない「異次元緩和」はどこへ行くのか
日銀は11日の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を全員一致で決めた。株価が暴落し、債券市場が不安定になっているが、黒田総裁は追加緩和はせず、「戦力の逐次投入はしない」と強気だ。しかしこれは間違いである。戦争は一点突破だが、金融政策は微調整の連続だ。むしろいったん突撃すると決めたら退却しない硬直した作戦こそ危険である。
黒田氏の始めた「異次元緩和」は、今のところ緩和効果どころか、長期金利を引き上げて、金融引き締めになっている。 もう一つの目標であるインフレも、先月の消費者物価指数は-0.4%で、予想インフレ率も低下している。 しかし黒田氏は記者会見で「緩和効果は順調に出ている」と強気の姿勢を崩さなかった。
(図)日銀のマネタリーベース残高(出所:日銀)
日銀の供給する資金量(マネタリーベース)は、上の図のように160兆円に近づき、小泉政権のときの量的緩和をはるかに上回っている。そのペースも毎月5兆円以上というハイスピードで、2年後には270兆円とGDP(国内総生産)の半分を超える。これは世界史上にかつてない莫大な資金供給の実験である。
これによって起こったことは、民間の機関投資家を追い出して日銀が新発国債の7割を買い占め、国家財政を買い支える財政ファイナンスである。主権国家には通貨発行権があるので、財政が行き詰まったときは「輪転機をぐるぐる回して」お金を発行し、財政赤字を埋める誘惑に負けやすい。このため財政ファイナンスは発展途上国ではよく起こるが、先進国では珍しい。
日銀が長期国債を買い続ければ金利上昇は収まるが、民間と違って日銀は簡単に国債を売ることができない。「日銀が売る」という噂が出ただけで国債の相場が暴落して、金利が暴騰するからだ。つまり金利が上昇局面になったとき、量的緩和から撤退する出口戦略が必要なのだが、黒田氏は国会で「出口戦略を考えるのは時期尚早だ」と明言した。
いまアメリカでFRB(連邦準備制度理事会)が苦しい選択を迫られているのも、株式市場が市場最高値を記録するなどバブル状態の中で、出口戦略をどうするかである。バーナンキ議長が少しでも量的緩和から撤退するようなことを示唆すると、株価が暴落するため、市場は神経質になっている。
まして日本の1%以下という長期金利は、17世紀のイタリア以来という歴史的な低金利であり、いつまでも続くとは考えられない。今までの低金利は、デフレに支えられた国債バブルであり、世界的に金利が正常化する過程では、出口戦略が必要になる。
しかしすでに日銀のバランスシートはGDPの3割を超え、FRBより大きい。富士通総研の早川英男エグゼクティブ・フェロー(元日銀理事)によれば、「これほど長い国債を買ってしまったら全部売れないのは明らかだ。物価がプラスになり金利を上げる必要が出てくれば、付利(日銀当座預金の金利)を引き上げるしかない」という。つまりもう日銀に出口戦略はないのだ。
金融緩和を戦争にたとえるとすれば、「2年で2倍!」と突撃しても成果が得られないとき、どうやって撤退するのかという出口を考えないで、ひたすら前進あるのみというのは危険である。黒田氏の作戦は、残念ながら失敗といわざるをえない。あとは犠牲を最小限に抑えて撤退することが名将の条件である。
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