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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
無責任な政治家が日本を「財政の崖」から突き落とす
アメリカでは「財政の崖」のリスクが取り沙汰され始めた。これはブッシュ政権から続く減税が今年末に失効して来年1月から増税が始まると同時に、連邦予算の強制的な歳出削減が1月から始まり、合計6000億ドル以上の緊縮財政が一挙に行なわれる可能性があるというものだ。これはアメリカのGDP(国内総生産)の4%にあたり、史上空前の「マイナスの景気対策」で成長率は3%近く低下する、と議会予算局(CBO)は警告している。
しかし大統領選挙とからんで、崖に落ちることを回避する議会の交渉は進まない。オバマ大統領は富裕層の減税を打ち切って中間所得層の減税を延長する方針だが、共和党はすべての減税を延長するよう求めており、大統領選挙の結果が出るまで妥協点が見出せそうにない。
他方、日本でも「財政の崖」が迫っている。赤字国債発行法案がいまだに成立しないため、このままでは11月末には財政資金が枯渇するのだ。10月29日から始まる臨時国会では、この赤字国債法案が焦点だが、19日に行なわれた与野党の党首会談も物別れに終わった。野党は「近いうちに解散する」という8月の党首会談の約束を履行するよう野田首相に迫ったが、首相は「問責決議に賛成して約束を破ったのは自民・公明だ」と主張して、解散時期の明示を拒否した。
財務省は地方交付税の支払いなど5兆円の予算執行を延期したが、それでも1ヶ月に使う予算は10兆円を超える。このまま法案が成立しないと、12月から年金や生活保護などの凍結や公務員給与の遅配などが起こる可能性がある。短期の財務省証券を発行すればつなぎ資金は確保できるが、財務省は「年度内の返済財源がはっきりしない証券の発行は財政法で認められない」として発行を拒否している。
さらに大きな問題として懸念されているのが、国債相場への影響だ。今年度の国債発行額は借り換えを含めて120兆円。建設国債は発行できるが、11月末で80兆円の枠を使い切ってしまう。このままでは12月の国債発行は不可能になるので国債価格が急上昇し、その後に大量発行されると暴落するおそれがある。これが一時的なものにとどまればいいが、かねてから恐れられている「国債バブル」崩壊の引き金を引くかもしれない。
しかし政界関係者は、意外に楽観的だ。「今までも何度か暫定予算になったが、財務省証券の発行でしのいできた。財務省はわざと厳格に法律を解釈して、政治家を脅しているだけ。いざとなったら隠し財源も出てくる」と、ある閣僚経験者はいう。
この駆け引きの裏にある重要なポイントは、政党交付金である。これは毎年1月1日現在の議員数と得票数を基準に決められ、今年は民主党は165億円の政党交付金を受ける(10月分の交付金は申請見送り)。しかし年内に総選挙をやって議席が激減すると、来年は100億円近く交付金が減るおそれがある。自前の組織が弱く財源の少ない民主党は、解党の危機に直面するだろう。
さらに民主党から分裂した新党「国民の生活が第一」の議席はゼロだから、年内解散だと政党交付金なしで選挙を闘わなければならない。このため同党の小沢一郎代表は年内解散に反対しているといわれ、野党の足並みはそろっていない。民主党から離党者が出て衆議院で過半数を割っても、内閣不信任案に「国民の生活が第一」が賛成しないと、解散に追い込むことができない。
野田内閣の改造も「解散先送りシフト」だ。特に国会対策の要となる民主党の輿石幹事長は強硬な解散先送り論者で、小沢代表とも太いパイプがある。きょうの毎日新聞のインタビューでも、自民・公明などが主張する「12月9日投開票」について「11月第3週には解散しないと間に合わないので無理だ」と反対し、定数是正なども理由にして、あらためて年内解散を否定した。
このまま行くと12月には赤字国債が発行できなくなり、日本が「財政の崖」から落ちるおそれが強い。今年いっぱいは隠し財源で「安全ネット」がある、と関係者は楽観しているが、国債相場が動揺することは避けられない。アメリカと同様、財政と国民生活を政治のおもちゃにする与野党が批判を浴びることも確実である。
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