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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
ソフトバンクは「裏オークション」で最大の携帯キャリアになった
10月1日、ソフトバンクはイー・アクセスを買収して100%子会社にすると発表した。イー・アクセスについては、かねてからLTE(次世代携帯電話)のインフラ投資の資金が不足していると噂され、携帯各社が争奪戦を繰り広げていた。この中でソフトバンクがイー・アクセスの株式を1株5万2000円という高値で買収する株式交換を提案し、競り勝ったのだ。
企業買収で市場より高い価格をつけることはよくあるが、買収総額は1802億円と直前の市場価格の3.5倍である。ソフトバンクの孫正義社長は、記者会見で「統合で相乗効果3600億円が見込める」などと語ったが、その最大のメリットは「基地局数でも電波を受けるエリアの広さでも競合他社を上回る」ことだと述べた。要するに業績不振のイー・アクセスを買ったのではなく、割り当てられた電波を買ったのだ。
ソフトバンクの電波は条件が悪いので、利用者から「つながりにくい」という苦情が出ているが、今回の買収でイー・アクセスのもつ1.7GHz帯の周波数をiPhone5で使うことができるようになる。ソフトバンクは先ごろ、iPhone5を無線LANの基地局として使う「テザリング」を認めると発表したが、孫氏は「この瞬間にイー・アクセスを買う腹をくくった」という。
この話は奇妙である。日本は主要国の中で、電波を通信キャリアの競売で割り当てる周波数オークションを実施していない唯一の国だ。「公共の電波を売買することは好ましくない」という理由で、政府が「美人投票」と呼ばれる書類審査で決めてきた。このような裁量行政は不透明で不公正なので、私を含めて多くの専門家が、LTEに使われる「プラチナバンド」と呼ばれる700/900MHz帯はオークションで割り当てるべきだと提言したが、総務省はこれを拒否した。
これについては当コラムでも紹介したように、民主党の仙谷由人政調会長代理(当時)が強く批判したが、総務省が巻き返して当初の方針どおり美人投票を実施し、900MHz帯をソフトバンクに割り当てた。この後、700MHz帯の割り当てはソフトバンクが辞退したため、NTTドコモ、KDDI、イー・アクセスの3社に割り当てることが6月に決まった。
これは700/900MHz帯を既存4社に割り当てたのだが、今回の買収で状況は変わった。ソフトバンクは900MHz帯で15MHz(当初は5MHz)を取得する上に、700MHz帯でもイー・アクセスの取得した10MHzをもつため、プラチナバンドで合計25MHzが使えることになる。ドコモやKDDIが取得するのは10MHzだから、LTEでは形勢が逆転し、ソフトバンクが最大の周波数をもつことになる。
ドコモとKDDIは今までに800MHz帯で15MHzずつ割り当てられているが、これに対応する電波はソフトバンクがすでに2GHz以上でもっている。今回の買収でソフトバンクは2社分の電波を保有し、孫社長のいうように日本で最大の帯域をもつ携帯電話会社になるのだ。買収の発表直前には1万5000円だったイー・アクセスの株価は、買収で急騰し、5日朝には3万3000円になった。
もちろん企業買収は合法だが、公式のオークションを行なわなかった結果、国庫に入ったはずの1300億円(買収価格と時価の差)は「裏オークション」でイー・アクセスの利益になった。言い換えると、イー・アクセスの株主は総務省から電波という形で1300億円もらったのと同じである。これが公正競争といえるだろうか。
6月に電波監理審議会が700MHz帯を10MHzずつ3社に割り当てると答申したのは「既存4社の既得権を守る」という意味だったが、その前提条件は今回の買収で崩れた。日本の携帯キャリアは3社になるのだから、700/900MHz帯も3社に15MHzずつとするのが当然だ。電監審は答申を撤回し、審査をやり直すべきである。
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