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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
「消費税増税の前に**が必要だ」という逃げ口上
消費税をめぐる国会の議論は解散や大連立などの政局的な話ばかりで、肝心の増税が必要かどうかはほとんど話題にならない。自民党も増税には賛成なので、争点は時期だけだ。反対派はみんな「増税の前に**が必要だ」というが、これは問題を先送りする政治家の逃げ口上にすぎない。主なものをあげてみよう。
1)増税の前にムダの削減が必要だ:これは民主党がかつて言っていたが、2回の事業仕分けで削減できたムダは1兆円にも満たない。予算の中に、誰が見てもムダな歳出なんてそんなにあるはずがないのだ。議員歳費や公務員給与の削減も、やらないよりましだが、1000兆円に達する政府債務に対しては焼け石に水である。財政赤字の最大の原因は社会保障なのに、与野党ともそれにふれようとしない。
2)増税の前に景気回復が必要だ:これは民主党内の反対派が主張し、増税法案には「名目成長率3%、実質2%」という努力目標が書き込まれたが、ここ10年平均の名目成長率が0%、実質成長率が1%の日本で、どうやったら3%成長が実現するのか、教えてほしいものだ。目標を掲げるだけで成長するなら、誰も苦労しない。民主党の「成長戦略」も同じ数字を掲げたが、何の意味もなかった。
3)増税の前に解散・総選挙で民意を問うことが必要だ:これは自民党の主張で、消費税の増税はマニフェスト違反だというのはその通りだが、民主党のマニフェストで実現したものがいくつあるのか。もともとマニフェストが非現実的だったのだから、それを改めるのは当たり前だ。マニフェストの元祖イギリスでも、マニフェストを一言一句守ることは求められない。
4)増税の前に「埋蔵金」の活用が必要だ:これはみんなの党が主張しているが、埋蔵金は主として特別会計の剰余金であり、特殊法人などへの出資金などは、その団体を清算しないと回収できない。すべての政府系団体をつぶして資金を回収しても、出てくる資金は200兆円程度。これを差し引いても政府の純債務は約800兆円である。
5)増税の前に金融緩和が必要だ:これは超党派の「デフレ脱却議員連盟」などが主張している。ゼロ成長でも、3%のインフレを起こせば(2)の目標は達成できるが、2000年代の平均インフレ率は-1%である。日銀は福井総裁時代にマネタリーベースを最大36%も増やしたが、デフレは止まらなかった。今回の「インフレ目途」で為替は動いたが、その効果も一時的だった。原理的に、金融政策で持続的な成長率を上げることはできない。
6)増税の前に消費税を地方税にすることが必要だ:これは大阪市の橋下徹市長の主張だが、今ごろこんなそもそも論をしていたら間に合わない。財政破綻は早ければ2015年ごろにも予想されているので、2015年に10%という今の法案でもぎりぎりであり、税率も5%でも危ない。
「不況で増税すると税収が減る」というのも嘘である。1997年の消費税率引き上げによって、消費税収は5兆円増えた。その後の金融不安で所得税や法人税が減ったことが、税収減の原因である。「増税すると歳出削減のプレッシャーがなくなる」というのが小泉内閣の方針だったが、結果的には歳出削減は中途半端に終わり、財政赤字はふくらむ一方だった。
遅かれ早かれ増税は避けられないのだから、問題は増税に賛成か反対かではなく、いま増税するか後で増税するかである。増税を延期すると、財政破綻のリスクが高まるばかりでなく、世代間格差が拡大する。これは若者だけの問題ではなく、財政が破綻してハイパーインフレや金融危機が起こると、いちばん困るのは年金しか収入のない高齢者だ。財政を再建するには社会保障を削減する必要があるが、それを待っていたら、いつまでたっても増税はできない。「増税の前に」ではなく、増税と併行して社会保障の見直しを進めるべきだ。
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