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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
東電の「国有化」は原発事故の処理を混乱させて国民負担を拡大する
新聞各紙が報じたところによると、政府の原子力損害賠償支援機構は東京電力の「実質国有化」を行なう方針だという。この理由は、福島第一原発事故にともなう賠償や廃炉の費用で東電が2013年3月にも債務超過になるおそれが強まり、電力の安定供給に支障が出かねないためだという。
これは多くの専門家が事故直後から指摘していたことだが、政府は「東電は資産超過だ」と言い張り、国が賠償を立て替える支援機構をつくって「国民負担はゼロにする」と言ってきた。その前提となる資産評価が、早くも崩れたわけだ。政府の「東京電力に関する経営・財務調査委員会」によれば、東電の賠償額は2011年度から2年間で4兆5000億円と推定され、東電の純資産は昨年から半減して2012年3月には7000億円程度になると予想されている。
経済産業省の案によれば、支援機構が東電に1兆円出資するという。これによって政府は、東電の株式の過半数を保有することになる。銀行にも1兆円程度の追加融資を求めるが、株主や債権者は丸ごと保護される。これは国有化というより、不良債権処理のときも銀行に行なわれた資本注入である。
銀行の場合は清算すると決済機能が失われて連鎖倒産が起こる「外部性」があるため、資本注入にも一定の合理性がある。その場合も債務超過になっている場合は、長銀や日債銀のように100%減資して株主が損失を負担することが国有化の前提であり、破綻した企業に政府が税金を投入することは許されない。
まして電力会社には決済機能の外部性はないので、政府が資本注入することはありえない。「破綻処理すると電力の供給に支障が出る」というのは間違いである。日本航空も会社更生法で破綻処理したが、飛行機は飛んでいる。東電の場合は本業(原発以外の発電事業)は健全なので、法的に整理しても電力供給に問題はない。
ここで株主や債権者がまったく損害を負担しないで政府が最大株主になると、「経営責任が曖昧だ」という批判が出ることは必至なので、政府は裁量的に「リストラ」や「経費節減」を求め、新エネルギーへの投資も削減されるだろう。10兆円以上ある自己資本や長期債務や社債をまるごと守ったままでは、経費を多少けずったところで浮く経費は知れているので、最終的には電気代を値上げするしかない。
とはいえ家庭用の料金を上げることは政治的に困難なので、東電は4月から大口料金を17%値上げする。これによって利用企業の経営は悪化し、製造業の海外移転が進むと、雇用が失われて労働者も損失を負担する。それでも除染などを入れると(東電の年間売り上げ)5兆円を超える損害をすべて料金に転嫁することは困難なので、最終的には資本が浸食されるだろう。投入される1兆円の税金は、ほとんど戻ってこないと考えたほうがよい。
この資本注入と並行して枝野経産相が「発電と送電の分離を検討する」と言い出したのも奇妙だ。発電と送電の分離は中長期の課題で、資本注入のどさくさまぎれにやるものではない。枝野氏は東電に税金を投入することに対する批判をやわらげるために東電を悪玉に仕立てようとしているのだろうが、こうした政治的な思惑で企業分割を行なうと取り返しのつかない結果になる。
不良債権問題のときも長銀や日債銀に政府が10兆円以上の資本注入を行なったが、最後は破綻処理(国有化)してほとんど損失になった。政府は「東電を5~10年で民間に売却する」という見通しを出しているが、賠償額が決まらないので処理が長期化し、税金を食いつぶした末に破綻処理せざるをえなくなるだろう。それまでに東電の債務はふくらみ、その負担は電力利用者や納税者に転嫁される。
昨年7月に、私を含む「公正な社会を考える民間フォーラム」が「原発事故の損害賠償に関する公正な処理を求める緊急提言」を出し、東電の資産査定や株主責任を曖昧にした政府の処理策は早晩行き詰まると警告した。巨額の賠償をまかなうには銀行に債権放棄を求めることが不可避であり、そのためには100%減資して株主が損失を負担することが商法の鉄則である。まして株主を守って納税者が損失を負担することはありえない。
「国民負担ゼロ」というのは嘘であり、東電の負担できない損失は、いずれにしても国民負担になる。その負担割合は資本主義のルールにのっとって決めるしかない。それが結局は危機を脱却する早道であることが、不良債権で日本が高い授業料を払って学んだ教訓である。
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