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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
「黒船」アマゾン来襲を前にして日本の電子書籍は壊滅状態
日本経済新聞によれば、アマゾンが年内にも日本で電子書籍を販売するという。こういう記事はこれまでにも何度も出ており、今度も「狼が来た!」に終わる可能性もあるが、PHP研究所が10月中にも契約するというから、今回は根も葉もない話ではないようだ。
アマゾンは、日本ではすでに電子書籍端末「キンドル」を投入しているが、電子書籍は売っていない。出版業界を取り仕切る取次との合意ができないからだ。日本の出版流通は委託販売という特殊な方式になっており、本はすべて取次が選んで小売店に配本し、返品自由になっている。このため取次は出版流通の要であり、出版社から本を仕入れて代金を前払いすることによって零細な出版社の金融機能も果たしている。これが電子化されると、取次は「中抜き」されてしまうからだ。
アマゾンのキンドルは、アメリカでは販売部数で紙の書籍を超えた。部数は公表されていないが、紙の書籍100に対して電子書籍の部数は105以上だという。私もアマゾン・ドットコムのサイトで買うときは、キンドル版があれば必ずそれを買う。紙の本は届くまでに何週間もかかるが、キンドルは一瞬で届くからだ。端末も専用端末だけではなく、普通のパソコンでもiPadでも読める。
この「黒船」に対抗して、日本の出版社や電機メーカーも昨年から電子書籍や端末を出し始めた。もっとも熱心だったのは「ガラパゴス」という冗談のような名前をつけたシャープで、500人の営業部隊を編成し、イーモバイルやツタヤなどと提携して「2011年中に売り上げ100万台をめざす」と野心的な目標を掲げた。
しかし今までの実績は、業界の推定によると1万5000台程度。9月には営業部隊も解散し、ツタヤとの提携も解消した。他にも大日本印刷や凸版印刷などが電子出版事業に進出し、出版点数は各社を単純合計すると14万点にも達する。しかし売り上げは、関係者によると「1点あたりの平均売り上げは月に数冊」という悲惨な状態だ。
この最大の原因は、各社がばらばらのフォーマットで出し、専用端末もメーカーごとに違うため、規格が違うと読めないなど、消費者を無視した商法にある。特にほとんどの端末がXMDFという日本独自規格に準拠しているため、キンドル端末でもiPadでも読めない。役所がこのフォーマットを標準化しようとしたが、「懇談会」が乱立して標準の標準化が必要になっている。
そもそも電子書籍の国際標準としては、PDFやEPUBというフォーマットがあるのに、わざわざXMDFという「ガラパゴス規格」を採用したのは理解に苦しむ。縦書きやふりがなができないというのが当初の理由だったが、今年決まったEPUB3はどちらにも対応し、キンドルでもiPadでも読めるので、XMDFは宙に浮いてしまった。
各社はあわててEPUBに対応しようとしているが、残念ながら無駄だろう。アメリカでさえ、電子書籍市場のシェアはアマゾンが70%を超え、アップルもソニーも数%のシェアしかない。あのスティーブ・ジョブズでさえ、この市場ではアマゾンに勝てなかった。消費者は「この端末で本を買おう」と考えるのではなく、書店サイトでハードカバーやペーパーバックの価格と比べてキンドルを買うからだ。
おそらく音楽配信事業をアップルが独占したように、電子出版市場はアマゾンが独占するだろう。その代わりアマゾンは、自費出版やオンデマンド印刷など、出版ビジネスの多様化を推進している。著者や出版社にとっては、流通チャネルはどうでもよく、共通フォーマットでたくさん売れればよい。今後は「プラットフォームは全世界で数社、コンテンツは細分化」というコンピュータ産業の水平分業構造が出版でもできるだろう。
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