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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
「デフレ先進国」日本に似てきたアメリカ経済
先週から始まった世界同時株安に対して、FOMC(米連邦公開市場委員会)は9日、実質的なゼロ金利政策を2013年なかばまで続けるという声明を出した。これは現在0~0.25%に誘導している政策金利を無条件に2年間続けるという異例の政策で、3人の理事が反対するというFRBのバーナンキ議長にとって初の事態になった。
金融調節を任務とするFRB(連邦準備制度理事会)が、向こう2年間は金利を上げないと宣言するのは奇妙だが、これには先輩がいる。日本銀行は1999年から始まったゼロ金利政策の中で「物価上昇率が安定的にゼロ以上になるまでゼロ金利を維持する」という方針をとった。これが時間軸政策といわれるものだ。日銀の白川総裁も10日の国会で「FRBの政策は日銀と非常に近いという印象をもっている」と語った。
中央銀行が「金利を上げない」と約束することは通常はありえないが、アメリカの政策金利は2008年12月に実質ゼロ金利になってから、もう2年半以上もゼロに張り付いたままだ。本来なら景気の「二番底」を防ぐために金利を下げなければいけないのだが、金利をゼロ以下に下げることはできない。
これが10年以上前に日銀の直面した問題だった。そこで日銀が試行錯誤の末に編み出したのは、銀行に供給する資金を積み増す量的緩和だった。これもFRBが2008年からまねてバランスシートを2倍以上にふくらませたが、あまり効果がなかった。
もう一つは、たとえ景気がよくなっても政策金利を上げないと約束することだ。日銀がコントロールできるのは短期金利だけだが、長期金利は短期金利を基準にして決まるので、当分は日銀が政策金利を上げないと約束すると長期金利も上がらない。長期金利はゼロではないので、金融緩和の効果がある。これが時間軸効果である。これも試行錯誤の末にやったことだが、少しは効果があったというのが大方の評価だ。
先進国でデフレとゼロ金利が10年以上続く異常な状況を体験したのは、日本が初めてだったため、最初は一部のエコノミストが「金融政策が間違っている」とか「日銀総裁はバカだ」などと批判した。バーナンキ議長も、プリンストン大学の教授だった10年前、日銀の対応を批判して「思い切って通貨を供給すればデフレは脱却できる」と述べた。しかし彼が議長になってから経験した2008年の金融危機以降、大規模な量的緩和を二度にわたってやったが、デフレと不況が続いている。
ここに来てはっきりしたのは、バブル崩壊によって発生した過剰債務が積み上がった状態では、中央銀行の政策には限界があるということだ。バブルが崩壊すると、企業は過剰債務を削減するために借金を返済する。アメリカも最近は、企業が貯蓄超過(返済超過)になっている。金利を下げるのは借金しやすくするためだから、企業が借金を返しているときは、金利を下げても意味がない。
さらにアメリカの場合、サブプライムローンなどで過剰債務を背負い込んだ家計部門が債務を返済しなければならない。これは企業よりも小口で数が多く、破産させて担保物件を売却すると住む家がなくなるので、最終処理がむずかしい。その結果、債務を背負った家計の消費が大幅に減退し、不況が長期化する。
そんなわけで、今アメリカで起こっている長期不況は、20年前の日本とよく似ている。不良債権の処理によって投資や消費が減り、それによって景気が悪化してさらに債務が増える・・・という悪循環である。デフレ先進国である日本の経験からも明らかなように、このように人々が借金を返しているときは、そもそも資金需要がないので、いくら中央銀行が通貨を供給しても意味がない。バランスシート調整が終わって過剰債務がなくならない限り、経済は正常に戻らない。
ただ日本の場合は、不良債権の最終処理を決断するまでに10年以上かかったが、アメリカはその決断は早かった。債務者を救済しながらソフト・ランディングしようとすると、結果的には処理に時間がかかって経済の混乱が長期化する。短期的な「痛み」を恐れないで過剰債務を処理するハード・ランディングしかない――というのが日本の教訓である。
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