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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
予算案のピンチは財政再建のチャンス
政府の2011年度予算の最大の焦点、子ども手当の審議が衆議院で始まった。現在は中学生まで1人当たり月額1万3000円の支給額を、3歳未満に限って月2万円に増額することなどを盛り込み、これによって新たに増える給付の総額は約3兆円だ。しかし子ども手当には自民党だけでなく公明・共産・社民の各党が反対の方針を表明しており、予算案は野党が多数を占める参院で否決される見通しだ。
民主党政権は、予算編成のときマニフェスト関連予算や社会保障を聖域化して、切れるところだけ切ったため、歳出が2010年度なみにふくらんでしまった。特に子供一人あたり468万円も出す子ども手当は、財政難の時代には考えられないバラマキ福祉で、満額実施は不可能だということは民主党内でも常識だった。それを党内の一部にある「マニフェストを守れ」という声に押され、選挙目当てに増額を決めたのが間違いのもとだった。
自民党は「バラマキ4K」と呼ぶ子ども手当、高速道路無料化、農家の戸別所得補償制度、高校授業料無償化の中止や、公務員人件費の削減によって約5兆円の財源を捻出する予算組み替え動議を提出する。しかし現状では自民党の動議も否決され、予算案は衆議院で可決されるだろう。予算案は参議院で否決されても自然成立するが、予算関連法案は参議院ですべて否決される。衆議院で与党が再可決するには2/3が必要だが、社民党が協力を拒否したため、再可決は不可能になった。
特に赤字国債を発行する特例公債法案が成立しないと、税収が歳出を大幅に下回っているため、行政サービスが止まる可能性がある。税収は約44兆円で、建設国債6兆円は発行できるので、92兆円の予算のほぼ半分は執行でき、夏ごろまではもつと見られているが、秋以降は財源がなくなる。当面は、国庫短期証券を発行して資金繰りをつなぐしかない。これは1年以内の短期資金を調達する証券で、20兆円の枠がある。短期証券には国会の議決は必要ないので、70兆円までは調達できるが、それでも年末には行き詰まる。
他方、野党は解散・総選挙を迫っているが、いま選挙をして自民党が第一党になっても、参議院では自民・公明で過半数に達しないので、やはり「ねじれ国会」になる。与党が衆議院の2/3を取れば再可決が可能だが、今の情勢では遠く及ばない。大連立には与野党とも否定的なので、不可能だろう。まさに八方ふさがりである。
しかしこういう事態は、今回が初めてではない。暫定予算は自民党政権でも前例があり、赤字国債が年度内に承認されないこともあった。最終的には予算が成立するという見通しがあれば、暫定予算になってもそれほど大きな混乱はないだろう。自民党政権では政府は予算案を修正しないという慣例があり、その唯一の例外が1996年の住専国会だが、55年体制以前には少数与党の時代が多く、予算は修正されるのが普通だった。
そもそも通常国会は予算を審議するために開かれるのだから、予算案を修正するのは当然だ。修正しないのは自民党が絶対多数だった時代の悪しき慣例であり、それを民主党が守るのは筋が通らない。少なくとも子ども手当の3兆円は、菅首相が決断すればすぐにでも減額可能だ。これはすでに生まれた子供に出るので少子化対策としては意味がなく、所得に無関係にばらまかれるため逆進的である。子ども手当を廃止すれば政府の歳出削減の意志が明確になり、財政再建の見通しも開けてくるだろう。
さらにマニフェストにこだわらないで他のバラマキ福祉も削減すれば、自民党の主張するように5兆円規模の歳出削減も可能である。民主党内には、統一地方選挙をにらんで「マニフェストを守れ」という理由で首相に反旗をひるがえす向きもあるが、どこの国でも選挙公約を100%実行した政権はない。このようなバラマキを続けたまま「社会保障と税の一体改革」という名の増税路線を強行しようとしても、行き詰まるだけだ。暫定予算と赤字国債の停止で「背水の陣」を敷き、与野党は真剣勝負で協議してはどうだろうか。
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