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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
非正社員を規制すると何が起こるか-日本郵便の「人体実験」
民主党政権は、製造業の派遣労働を禁止する労働者派遣法の改正案を出すなど、非正社員の規制に熱心だ。その背景には社民党と連携するねらいがあるといわれているが、非正社員を規制すると、彼らは正社員になれるのだろうか。日本郵政グループの郵便事業会社(日本郵便)で、それを示す「人体実験」が行われた。
民主党も国民新党も社民党も、非正社員を禁止すればみんな正社員になると思っているようだが、そんなことはありえない。企業の人件費は決まっており、正社員のコスト(賃金・年金・退職金など)は非正社員の約2倍なので、規制によって正社員を増やすと雇用できる人数が減り、非正社員が職を失うのだ。
国民新党の亀井静香氏は、鳩山内閣の郵政担当相だったとき、郵政民営化を見直すと同時に「日本郵政グループにいる22万人の非正社員のうち、10万人を正社員に登用する」という方針を打ち出した。その結果、正社員募集に応じた非正社員のうち、8400人(うち日本郵便は6500人)が正社員に登用された。そこまではいいが、問題はその後だ。
日本郵便は、もともと郵便物の扱いが減っていることに加えて、「ゆうパック」の「ペリカン便」との統合が失敗し、大幅な遅配が起こるなど、経営の混乱で顧客が離れ、経営危機が表面化した。このため2012年度は新卒採用の中止を決め、これによって約2000人の雇用が失われたが、さらに今年3月末で期限の切れる非正社員のうち2000人の契約を更新しない「雇い止め」を決めた。
つまり6500人の非正社員を正社員にした結果、4000人の雇用が失われたわけだ。日本郵便の場合、正社員と正社員の賃金は、ひとり年間200万円違うといわれている。単純に計算すると、正社員化によって年間130億円の人件費が増え、それを4000人の雇用減で埋め合わせたことになる。特に非正社員のうち、雇い止めされる2000人は、正社員に登用された6500人の犠牲になったわけだ。
非正社員の雇用が不安定で気の毒だというのは、その通りだろう。しかし企業は、彼らを慈善事業で雇っているわけではない。人件費以上の売り上げがなければ、赤字が出て雇用を維持することはできない。それを無理やり正社員にしろという規制を行うと、経営が悪化して結局は雇用が失われるのだ。
民主党政権は、2009年の総選挙で「小泉内閣の構造改革で格差が拡大した」というキャンペーンを張り、国民新党と連立して郵政民営化を見直す郵政改革法案を昨年の通常国会に提出した。しかし法案は通常国会で廃案となり、亀井氏は閣僚を辞任した。
日本郵便は2011年3月期決算では1050億円の赤字を計上する見込みで、昨年度に自己資本は約600億円減少した。鍋倉真一社長は支店長会議で「赤字が継続すれば、いずれ債務超過の状態になる」と危機感を表明し、宅配便からの撤退も検討されている。そうなれば、もっと多くの雇用が失われるだろう。
政治が企業経営をおもちゃにするとどうなるか、民主党は日本航空で学んだのではないか。日本郵便の場合も、政治家が労働組合と結託して経営を私物化し、人件費を増大させるというJALと同じパターンである。その結果、JALには1兆円以上の公的資金が投入された。このまま天下り経営者による放漫経営が続くと、日本郵便も同じ結果になるおそれが強い。最悪の事態になる前に、郵政民営化の原点に返って経営の合理化を進めるべきだ。
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