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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
民主党政権が高める日本の「カントリーリスク」
急速な円高で、日本企業の海外戦略が見直しを迫られている。日本政策投資銀行が8月3日に発表した設備投資計画調査によると、2010年度の日本企業の海外設備投資額は前年度比35%増となり、設備投資の総額20兆円の1割を超えた。経済危機後の投資の大幅な落ち込みが回復してきたが、その大部分は新興国などにシフトしている。特に製造業では、海外投資の増加率は57%に達している。
たとえばパナソニックは、今後3年の中期経営計画で、海外売上高比率を55%まで高める方針だ。昨年度の海外売上高比率は48%だったが、今年4~6月期は半分を超した。今後の設備投資も新興国に集中する予定で、特にインドでは新たに工業団地を建て、エアコンや冷蔵庫などの生産拠点にする方針だ。パナソニック・グループの採用も、今年は8割が海外だった。
この一つの原因は、市場の大きさが違うことだ。たとえば中国の液晶テレビ販売台数は来年4500万台に達して世界最大の北米を抜くと予想され、1000万台前後の日本とは比較にもならない。このため電機・自動車メーカー各社は、中国企業との資本提携を進め、生産拠点を中国に増やしている。中国の消費増加量は世界の半分を占めるといわれ、その中に立地しないと大きなシェアを得ることはできない。
もう一つは、価格競争が激しくなって、日本からの輸出ではとても対応できなくなったことだ。中国やインドで生まれている製品は、先進国のような高機能・高価格のイノベーションではなく、3000ドルの自動車や300ドルのPCなど、新しい機能を付け加えるのではなく、不要な機能をそぎ落とす「逆イノベーション」である。それに対抗するには、現地で低賃金の労働者を雇い、最小限の設備によって低コストで生産するしかない。
こうした変化は、90年代から新興国の発展とともに、世界的にみられる傾向である。それは産業の「空洞化」をもたらして賃金の低下をまねくおそれが強いが、この流れを各国の政府が阻止することはできない。このため先進国の政府は、サービス業への転換や対内直接投資を促進するなど、国内の雇用を守る対策に苦慮してきた。
ところが民主党政権は、これを「グローバリズム」とか「市場原理主義」と呼んで敵視するばかりで、何の対策もとっていない。日本の法人税率は主要国でもっとも高く、アジアの租税競争の敗者になろうとしているが、民主党の動きは鈍い。法人減税には、労働組合が「大企業優遇」と反対しているからだ。
過剰規制も、企業の海外移転を促進している。特に雇用規制は、アジアでは突出して厳重で、「偽装請負」の禁止によって自動車メーカーは、アジアへの拠点移転を余儀なくされた。厚生労働省は最低賃金を引き上げる方向を打ち出しているが、これによって企業の海外移転はさらに進むだろう。
この他にも、個人情報保護法や著作権法などの規制が強いため、情報サービスの拠点を海外に置く企業も増えている。薬事法の改正で薬品のネット販売が大幅に規制されたため、通信販売サイトのケンコーコムは本社をシンガポールに移した。今後の問題として多くの企業が危惧しているのは、民主党政権が国際的に公約した温室効果ガスの25%削減だ。
ある商社の幹部は「今やアジアで一番カントリーリスクの高いのは日本。民主党政権が反企業的な政策ばかり出すので、国内にいたくてもいられない」とこぼしていた。企業を追い出したら二度と戻ってこず、国内には世界で闘えない企業と老人と、彼らを養うための重税を負担する若者だけが残るだろう。
政府は円高にあわてて経済対策を協議しているが、為替介入や金融緩和の効果は限定的だ。それより必要なのは、規制や税制を見直し、国内に立地する企業が新興国と闘える環境を整えることである。
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