コラム

日本経済の再建には株主資本主義が必要だ

2010年01月13日(水)20時21分

 日本航空(JAL)の経営再建問題が、大詰めを迎えている。企業再生支援機構の支援を前提にして会社更生法を申請する方向で取引銀行も一致し、100%減資と上場廃止、年金の減額などが決まった。それでも7000億円程度の債務超過になるため、最終的には公的資金の投入は避けられないが、最近の企業の破綻処理としては珍しく、筋の通った処理が行なわれる見通しになった。

 こんな自明の処理を決めるのにこれほど時間がかかった最大の原因は、経営陣が法的整理を回避しようとしたためだが、なぜ法的整理が悪くて私的整理ならいいのかよくわからない。「企業の継続性に不安が起きて乗客離れが起きる」というのが理由らしいが、破綻しても運航には支障がないことを説明すれば、それほど大きな影響があるとも思えない。経営陣は「会社」という運命共同体を守りたいという漠然たる願望で動いていたとしか思えないが、世界の航空業界では大手でも破産するのは日常茶飯事である。JALのように派閥抗争でめちゃくちゃになった会社が、経営陣を温存したまま再生できるはずがない。

 日本では企業を「日航さん」のように擬人化する習慣があるが、株式会社には人格はなく、生存権もない。それは株主が集まって投資を行なうための乗り物(ビークル)にすぎないので、乗り物として使えなくなったら乗り換えるのが当たり前だ。こういうとき、株主が100%のリスクを負うのも当然である。民主党は「株主至上主義」を否定して労働者参加を求める「公開会社法」を来年の国会に出そうとしているが、経営破綻のとき労働者は責任を負うのだろうか。利益の分配だけにあずかって破綻したとき何も負担しないのでは、労働者はフリーライダーである。

 民主党は「供給サイドから需要サイドへ」の変化を志向するそうだが、今回の処理はその原則にそったものだ。企業は消費者のためにあるので、それ自体に価値はない。自民党政権では、企業に補助金を投入する「産業振興」によって成長を支援したが、そういう途上国型の政策はもういらない。JALという企業が消滅しても、オープンスカイ協定を結んだおかげで海外の航空会社が国内線で運航できるようになったので、競争上の問題もない。

 実は、このオープンスカイ協定は小泉政権のころから導入が議論されながら、官僚機構と自民党の抵抗で実現しなかったものだ。それを実現させた前原国土交通相の政策は、政権交代の効果を生かしたものだ。鳩山政権の政策は評価すべきものがほとんどないが、自民党のバラマキ行政の惰性を断ち切る前原氏の手腕は、高く評価されてよい。株主資本主義の原則にそって、株主がリスクもリターンも100%負うことが、日本経済を建て直す最短の道である。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story