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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
鳩山氏のNYタイムズ論文が引き起こした思わぬ波紋
まもなく日本の首相になる民主党の鳩山由紀夫代表がニューヨーク・タイムズに寄稿(?)した論文が、世界に波紋を呼んでいる。当のNYタイムズが「民主党は市場の改革を放棄した」と題する記事を書き、ワシントン・ポストやウォールストリート・ジャーナルなどの主要紙も、いっせいに鳩山論文の「反グローバリズム」を非現実的な反米路線として批判した。
ところが鳩山氏は「あの論文は私が寄稿したものではない」と否定している。民主党側の説明によれば、問題の英文は『VOICE』9月号に掲載された論文を鳩山事務所が英訳してロサンジェルス・タイムズに提供したが、NYタイムズに出るとは知らなかったという。内容も原文の半分以下に圧縮され、「市場原理主義」批判の部分だけが誇張されている。
これに対してNYタイムズは「あの論文はシンジケートで配信されたもので、当社の編集判断ではない」と説明している。シンジケートというのは、日本でいえば通信社の記事を地方紙が載せるように、同じ記事を世界の新聞が転載するシステムだ。奇妙なことに、LAタイムズには鳩山論文は掲載されず、クリスチャン・サイエンス・モニターというウェブ専門紙に8月19日に掲載され、26日にシンジケートの事務局であるインターナショナル・ヘラルド・トリビューンとNYタイムズに同時に掲載された。
まだ事実関係がはっきりしないが、民主党によれば、LAタイムズの日本の代理人は「鳩山氏の署名でシンジケートに配信する」とは説明せず、原文を抜粋した最終版も見せなかったという。鳩山氏側の提供した英文をそのまま載せるなら問題はないが、それを半分以下に縮めて著者の了解をとらないで世界に配信するのはルール違反である。少なくとも"by Yukio Hatoyama"という署名はつけるべきではない。
しかし鳩山氏側も、英訳した論文がどこに掲載されるのか、著作権はどうなるのか、などの確認をせず、19日にCSモニターに掲載されたのも知らなかったという。NYタイムズ論文が海外メディアで取り上げられてから、あわてて事実を確認し、上のような経緯がわかったらしい。選挙戦の最中でもあり、海外メディアに何が出ているかまで注意する余裕はなかったのだろう。
民主党が圧勝し、鳩山氏が次期首相になると決まったとき、海外メディアが彼を知る材料はほとんどなかった。特に英語圏のメディアは英語で書かれた文章しか読まないので、鳩山氏の署名入りで一流紙に書かれたNYタイムズ論文が注目され、特にその内容が「東アジア共同体」を提唱する刺激的なものだったため、予想以上の反響を呼んだわけだ。当然、オバマ大統領もこの論文を読んだだろう。きのう鳩山氏はオバマ氏と電話で会談して「真意」を説明したようだ。
これまでの説明を聞くかぎり、LAタイムズの説明不足が混乱の原因だと思われるが、鳩山氏側の情報管理も甘かったといわざるをえない。たとえは悪いが、ちょっと前までは田舎芝居の座長だった俳優が、ある日突然、世界のスーパースターになったようなもので、一挙手一投足が注目されることに戸惑っているようだ。よくも悪くも、鳩山氏は(今のところ)世界第2の経済大国の指導者になるのだ。今回の事件を教訓として、民主党は海外を含めたメディア戦略を立て、危機管理体制をしっかりする必要がある。
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